監査が邪魔だと感じたら

 2001年12月のエンロン破綻とそれを受けた米国株式市場の危機を受け、2002年7月に制定された粉飾決算防止を主目的としたSOX法は、我が国にも影響を与え、2006年6月には「金融商品取引法」(いわゆる日本版SOX法)が制定されました。これ以降特に『コンプライアンス』(法令遵守)は完全に日常業務用語として定着した感があります。

 また会計上の粉飾以外でも、食品製造における賞味期限切れ材料や生産地の偽装、事故や不正の隠蔽などがニュースで取り上げられる度にコンプライアンスやコーポレート・ガバナンスの重要性が叫ばれるようになっています。

 現実に会社勤めをされている方でも、近年になってコンプライアンスのための定期的に監査が業務の中に飛び込んでくることが増えていると感じていないでしょうか。

 

 ここにおいて監査を受ける現場では、「コンプライアンスの重要性は分かっているけれど、こんな繁忙期に時間を取られるのは遠慮したい」や「監査のために報告書をまとめるというのは何とも内向きの仕事で意欲が出ない」、「監査対応の事務負担が年々重くなっている気がする」といった本音が潜んでいるものと推察しています。これを長期に放置しておくと、検査逃れや不正報告、形骸化といった事態に繋がってしまうため、コンプライアンスの推進のために、定期的な社内教育で法令遵守の理解を徹底するように、ある程度の大企業であれば今日現在においては既に定着しているようです。

 

 監査の必要性を再認識するには、過去の具体的な事故事例からその被害の重要性(マイナスの影響)をより広く、深く知るということが主流になりがちですが、組織がその目的に向かって邁進してゆくための補助(プラスの影響)になり得ることも知っておきたいところです。

 

 話は変わりますが、自動車の直進安定性を向上するための技術として、ホイール・アライメントという方法があります。これは自動車を上から見たときに、前輪があたかもカタカナの「ハ」の字になるように前に向けてすぼまるよう(「トーイン」と呼ばれるかたち)に設置するものです。この調整作業については「ミニ四駆」に親しまれた方もご存知かもしれません。(ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です)

 前輪を精密な平行でなく「ハ」の字に設置することは、走行時に余計な路面抵抗が発生することに繋がるわけですが、それを踏まえた上でも自動車の直進安定性を優先させるというのが常識になっているということです。

 目的に向かって組織内全員でベクトルを合わせて安定して進んでゆくには、目的に向かって直進するため必要な若干の抵抗、ここでは直接業績や運営に寄与しない「監査」が機能的にも必要ということであると理解できるのではないでしょうか。

 

 それにしても監査のための業務負担は軽いに越したことはありません。

 なるべく機械的・電子的に必要な記録が自動的に保存・整理され、監査の際には容易に証跡として提示できるような業務環境を整備するための投資も望まれますが、このあたりはいつも後回しにされがちなのは困ったものです。