アメリカの映画や刑事ドラマで、壁一面に写真や地図、メモ、新聞記事などが貼り付けられ、糸をピンで繋いでいる様子を見たことがあるでしょうか?これは、研究や捜査の状況を視覚的に表現する「捜査ボード」(Detective Board あるいは Investigation Board)と呼ばれるものです。特に、映画「ビューティフルマインド」(2001)で主人公ジョン・ナッシュが、部屋中に大きく張り巡らされた数々のボードを駆使して難解な理論構築に挑む姿は、多くの人々に強烈な印象を与えたのではないでしょうか。
捜査ボードは、単なる視覚的な飾りではなく、思考を整理し、複雑な問題を共有・解決するための強力なツールです。散らばった情報を一箇所に集め、それらの間の関係性を視覚的に表現することで、新たな発見やアイデアを生み出すことができるのです。
しかし、このような捜査ボードは、日本のビジネス書や教育現場ではあまり見かけることがありません。なぜなのでしょうか?(ひょっとするとアメリカでは公共教育の場で教えている手法なのかもしれませんね。)
日本では、付箋を使ったブレーンストーミングや、トニー・プザンのマインドマップ、ロジックツリーなどが広く知られています。これらの手法も情報の整理に役立ちますが、捜査ボードのように自由な発想を促し、複雑な関係性を可視化することに特化しているわけではありません。これらは、ある程度体系化されたものを「見える化」するのには向いているかもしれませんが、系統や構造、相互関係を分析するには、柔軟性に欠ける面があると言えるでしょう。
実は、日本にも捜査ボードに似た手法、あるいは参考になる考え方が既に存在します。それは、棋界の古典として知られる川喜田二郎氏の「発想法」(1967)です。「発想法」は、KJ法と呼ばれる手法を用いて、複雑な問題を解決するための創造手法です。KJ法は、情報を紙のカードに書き出し、それらをグループ化し、新たな関係性を見出すことで、問題の本質に迫ることを目指します。
KJ法は、捜査ボードと共通する点が数多くあります。
- 情報の可視化: 情報をカードに書き出し、広げて並べることで、全体像を把握しやすくなります。
- 自由な発想: カードの配置やグループ化は自由に行うことができ、新たな発想が生まれやすくなります。
- 非線形な思考: 線形的な思考だけでなく、非線形な思考を促し、複雑な問題を解決することができます。
パーソナルコンピュータが普及していない時代に考案された方法論ですが、「発想法」の考え方は、現代においても大いに参考になるはずです。
映画で見たような本格的な捜査ボードを作るのは難しいかもしれませんが、身近なもので手軽に試すことができます。コルクボードやホワイトボードに、メモや写真、図などを貼り付け、色付きの紐やマーカーで繋いでみましょう。そして、川喜田二郎氏の「発想法」も参照しながら、自分なりの思考の可視化方法を確立してみてください。
捜査ボードや「発想法」は、単なる情報整理ツールにとどまりません。これらを用いることで、私たちはより創造的で革新的な思考を手に入れることができるでしょう。