鎌倉時代に中国から日本へ伝来した禅宗は、その後の我が国の歴史や文化に大きな影響を与えてきました。特に武士階級を中心に広まり、その思想は武道や芸術、茶道など多岐にわたる分野に浸透し貢献してきました。現代においても、坐禅やマインドフルネスといった形で禅の教えが注目されています。
しかしながら、禅宗が日本社会に与えた影響は、肯定的な面ばかりではありません。その否定的な側面は、現代社会においても様々な悪弊として残っていると考えられます。しかしこれを強調して訴えることは、一種の宗教弾圧や誹謗中傷と受け止められてしまう危険性があるため、客観的な理解を得られるように慎重を期さなければなりません。それでもこの視点は、日本社会の悪弊について、より明確な理解につながるものと考えていますので、少しだけお付き合いください。
禅宗の否定的な側面
1 精神主義偏重
禅宗の厳しい修行や忍耐を重んじる姿勢は、現代社会において過度な精神主義や根性論に繋がっている可能性があります。例えば、企業における長時間労働や過剰なノルマ達成の強要は、「気合で乗り切れ」といった精神論が背景にあると考えられます。また、学校教育においても、生徒の精神力を鍛えるという名目で、非合理的な体罰や精神的なプレッシャーを与える教師が存在します。
日本社会の精神主義について、しばしば先の大戦時の軍国主義を起源とするという説明を聞くことがありますが、禅宗に由来するもっと古く、根強いものと見なさなければならないでしょう。
2 権威主義的な上下関係
禅宗の厳しい上下関係は、現代社会におけるパワハラや差別を生み出す温床になっている可能性があります。例えば、会社における上司と部下の関係や、学校における教師と生徒の関係において、立場の強い者が弱い者に対して一方的に指示したり、人格を否定するような発言をしたりするケースが見られます。また、スポーツ界においても、指導者が選手に対して暴力や暴言をふるう事件が後を絶ちません。
こうした上下関係については、儒教教育に由来しているという説明を聞くことがありますが、禅宗で定着した習慣であるとも考えられます。特に「修行」ですので、危険を伴うくらいに厳しいのが当然とされてしまいます。お寺の中の少人数教育ならまだしも、大きな組織になると大きな圧力や責任がひとりの個人にのしかかることにもなるでしょう。
3 形式主義
禅宗の形式や作法を重んじる姿勢は、現代社会において形式主義や事なかれ主義に繋がっている可能性があります。例えば、会議や儀式において、形式的な手続きばかりを重視し、本質的な議論や意思決定を疎かにするケースが見られます。また、企業においては、稟議書や企画書の作成に膨大な時間を費やすものの、実際に実行されるのはごく一部であるという状況も珍しくありません。
日本には西洋哲学が根付いておらず、原理原則を持てないとする批判は多くの評論家の意見として散見されます。しかしこの形式主義も禅宗の影響を多分に受けたものとして理解できます。式典や朝礼などは近年になって減少や簡素化されていますが、まだまだ「区切りをつける」ことへの美化が強すぎるように思います。また、掃除をすると心もキレイになるとか、仕事を通じて人格陶冶になるといった話について全否定はできないものの、もっと他に本質に迫るより良い方法があるように感じられます。
4 非論理的な思考
禅宗の公案や禅問答は、論理的な思考を軽視する傾向があるため、現代社会において非論理的な思考や曖昧なコミュニケーションを助長している可能性があります。例えば、会議において、感情的な意見や根拠のない主張が飛び交い、建設的な議論ができないケースが見られます。また、ビジネスシーンにおいても、曖昧な表現や言い回しが多く、相手に意図が伝わりにくかったり、誤解を生んだりするケースがあります。
禅僧の和尚様の「ありがたい」そして極めて分かりにくい説教も、和尚様に説明が悪いのではなく信徒の頭が悪いのが問題ということになっていませんか? 「不立文字 (ふりゅうもんじ)」として真理は言葉に出来ないからといって、詳しい説明をする工夫や努力を放棄していないでしょうか?
本当の修行僧はまず仏典や漢籍を十分に勉強して知識を蓄えた上で、高僧がその飛び抜けた眼力で習得度合いを見抜いて段階に合った問い掛けをし、教えの堂奥へ導くのが本来の姿と想像しています。それが現実にはできていないことが多いので、中途半端で偉ぶるだけの修行者を「蝦蟇禅 (がまぜん)」とか「野狐禅 (やこぜん)」という言葉で批難するようになったのでしょう。
具体的な事例
以上に挙げた禅宗の側面は日本人の行動様式に定着し、現代社会に様々な「副作用」をもたらしていると考えています。禅宗の優れた面に対する、ちょうどコインの反対側で生じてしまう避けがたい副作用だとしても、行き過ぎが明確な件であれば因習的と判定して、その都度ブレーキをかけられるはずのものではないでしょう。
- 過労死問題 = 企業の長時間労働は、禅宗の精神主義が影響している可能性があります。「仕事に打ち込むことが美徳」という価値観が、過労死という悲劇を生み出す背景にあると考えられます。
- パワハラ問題 = 会社におけるパワハラは、禅宗の権威主義的な上下関係が影響している可能性があります。上司が部下に対して絶対的な権力を持ち、人格を否定するような発言を繰り返すケースがあります。
- 学校の体罰問題 = 学校における体罰は、禅宗の精神主義が影響している可能性があります。「生徒の精神力を鍛える」という名目で、教師が生徒に対して体罰を加えるケースがあります。
- 会議の形骸化 = 会議において、形式的な手続きばかりを重視し、本質的な議論や意思決定を疎かにするケースがあります。これは、禅宗の形式主義が影響していると考えられます。
読者への再認識のお願い
禅宗は、日本の文化に多くの良い影響を与えてきた一方で、現代社会において様々な悪弊を残していることも事実です。禅宗の肯定的な側面を認めることは重要ですが、否定的な影響から目を背けることはできません。禅宗に由来する悪弊を克服し、より良い社会を築くためには、これらの問題点をより的確に再認識し、改善に向けて努力する必要があります。
以上