AirLand-Battleの日記

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もっと褒める一言を。しかし行き過ぎには注意。

 近年、「褒める」教育や子育て、社内コミュニケーションが注目を集めています。従来の「ダメ出し」中心の教育から、相手の自己肯定感を育み、能力を引き出すことを目的とした「褒める」教育への転換は、多くのメリットをもたらす一方で、注意すべき点も存在します。今回は日本人を全てマゾヒストと見なしたような「ダメ出し」文化からの脱却と、「褒める」文化の醸成に向けた案内としたいと思います。

 

従来の「ダメ出し」教育の問題点

 日本の社会は、古くから集団の秩序や協調性を重視する傾向が強く、個人の感情よりも集団の和を重んじる文化がありました。また伝統的に勤勉さや忍耐力が美徳とされ、努力を惜しまずに目標を達成することが重視されてきました。

 そのため、子どもには自己主張を控え、周囲に迷惑をかけないように行動することが求められました。そのため厳しく「ダメ出し」をして叱ることは、子どもが社会のルールや規範を身につけ、集団の一員として適切に行動するための教育方針と考えられていました。逆に甘やかすことは、子どもの成長を妨げ、将来的に社会で活躍できなくなるという考え方も存在しました。

 また子供以外でも儒教道徳として、年長者や権威への敬意、上下関係の秩序などが重視され、組織の長や管理者に絶対的に従うべきだと考えられていました。

 

 しかしこうした従来の「ダメ出し」中心の教育には、以下のような問題点がありました。

  • 自己肯定感の低下:
    • 常に否定的な評価を受けることで、子どもは自己肯定感を失い、自信をなくしてしまうことがあります。
    • 自己肯定感が低い子どもは、新しいことに挑戦することを恐れ、消極的な性格になることがあります。
  • 学習意欲の低下:
    • 叱られることばかりで、子どもは学習意欲を失ってしまうことがあります。
    • 特に、能力を否定するような叱り方は、子どもの学習意欲を著しく低下させます。(いわゆる「褒められて伸びるタイプ」の人は昔からいたと考えられますので、叱られれば当然意欲は減退することになったでしょう。)
  • 能力の抑制:
    • 子どもの短所ばかりを指摘することで、長所や才能が埋もれてしまうことがあります。
    • 子どもは、自分の得意なことに気づく機会を失い、能力を伸ばすことができなくなります。
  • 親子の信頼関係の悪化:
    • 常に叱られることで、子どもは親や教師に対して不信感を抱くことがあります。
    • 信頼関係が崩れると、子どもは親や教師の言うことに耳を傾けなくなり、反抗的な態度を取るようになることがあります。
  • 精神的な悪影響:
    • 過度な叱責は子供の精神的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
    • 常に強い言葉で叱責を受けることにより、子供は不安やストレスを感じてしまう可能性があります。

なぜ「褒める」ことが重要なのか?

 上記の反省と近年に注目度の上がっている「褒める」ことの重要性は、心理学や脳科学の研究によって裏付けられています。

 褒める側は改めて褒め言葉の語彙を増やす必要がありそうですね。どうも現代人の多くは罵倒語や皮肉、嫌味は言えても、適切に励まし褒めるような言葉をそもそも持っていないような気がします。

  • 自己肯定感の向上:
    • 褒められることで、子どもは自分の存在や能力が認められていると感じ、自己肯定感が高まります。
    • 自己肯定感が高い子どもは、新しいことに積極的に挑戦し、困難な状況にも立ち向かうことができます。
  • 学習意欲の向上:
    • 褒められることで、子どもは「もっと頑張ろう」という意欲を持つようになります。
    • 特に、結果だけでなく、努力やプロセスを褒めることで、子どもの学習意欲を高めることができます。
  • 能力の向上:
    • 褒めることで、子どもの長所や才能を伸ばすことができます。
    • 子どもは、自分の得意なことを褒められることで、さらにその能力を伸ばそうと努力します。
  • 良好な人間関係の構築:
    • 褒めることは、子どもとの信頼関係を築く上で重要です。
    • 親や教師から褒められることで、子どもは安心感を覚え、良好な人間関係を築くことができます。

褒めすぎによる副作用と注意点

 ただし「褒める」ことには多くのメリットがありますが、褒めすぎには注意が必要です。

  • 増長・慢心:
    • 常に褒められることで、子どもは自分の能力を過大評価し、努力を怠るようになる可能性があります。
    • また、他者を見下すような態度をとったり、批判を受け入れられなくなったりする可能性もあります。
  • 自己肯定感の低下:
    • 安易な称賛は、子どもの内面的な成長を促さず、むしろ自己肯定感を低下させる可能性があります。
    • 子どもは、「自分は本当に褒められるに値するのだろうか」と疑問を感じ、不安や焦燥感を抱くことがあります。
  • 依存心の助長:
    • 常に褒められることを期待するようになり、他者からの評価に依存するようになる可能性があります。
    • 自分の内面的な基準ではなく、他者の評価によって行動を決定するようになるため、主体性が失われる可能性があります。
  • 挑戦意欲の低下:
    • 失敗を恐れるようになり、新しいことに挑戦することを避けるようになる可能性があります。
    • 常に成功体験を得ようとするため、困難な課題から逃避する傾向が見られることがあります。

適切な褒め方とは?

 まだまだ「ダメ出し」で叱ることが主流であって、上記のような行き過ぎの心配は無用のようにも思えますが、どのように褒めるのが適切なのかを知っておくことで、確信をもって「褒める」ことができるようになると思います。

  • 具体的な行動や努力を褒める:
    • 結果だけでなく、プロセスや努力を具体的に褒めることで、子どもの成長を促すことができます。
    • 例えば、「テストで100点を取ったね」だけでなく、「毎日コツコツ勉強していたから、100点を取れてすごいね」のように褒めることが重要です。
  • 内発的な動機付けを促す:
    • 子どもの内面的な成長や意欲を重視し、外発的な報酬に頼らないようにすることが重要です。
    • 「褒められるために頑張る」のではなく、「○○が好きだから頑張る」というように、内発的な動機付けを促すことが大切です。
  • 適度な頻度とタイミング:
    • 過剰な称賛は逆効果になる可能性があるため、適度な頻度とタイミングで褒めることが重要です。
    • 子どもの成長や状況に合わせて、適切なタイミングで褒めるようにしましょう。
  • 失敗を受け入れる姿勢:
    • 褒めることと同様に、失敗を受け入れることも重要です。
    • 失敗から学び、次に繋げることの大切さを教えることで、子どもの成長を促すことができます。
  • 人格否定はしない
    • 行動が悪かった場合は、人格を否定せずに、行動のみを否定する。
    • 例:「あなたはダメな子」ではなく「今回は○○だったから、次は△△してみよう」
  • 親自身が成長する
    • 褒める技術を学ぶのと同時に、親自身も子どもと共に成長する姿勢が重要です。
    • 子どもの個性を尊重し、共に学び、成長していくことが大切です。

 

 「褒める」ことは、子どもの成長を促す上で有効な手段ですが、使い方を誤ると逆効果になる可能性があります。子どもの個性を尊重し、適切な称賛を心がけることが重要です。褒めることで子どもの心に火を灯し、成長を加速させることができるはずです。

 

 なお、上では伝統的に日本社会では叱ってばかりであったという理解で述べましたが、もっと褒めるべきと感じていた人がいたことも間違いありません。帝国海軍元帥の山本五十六 (1884~1943) の残した有名な「男の修行」は以下のような文になっています。

【やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ

 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず

 やっている、姿を感謝で、見守って、信頼せねば、人は実らず】

 

「ほめてやらねば」!