報道機関のインタビューや記者会見などで、質問に対して「ノー・コメント」と答える場面をよく見かけます。この「ノー・コメント」という対応は、一体どこまで許されるのでしょうか? 今回は、ノー・コメントが許されるケースと、その必要性や適格性、乱発した場合に社会へ与える影響について解説してみようと思います。
1. ノー・コメントとは?
「ノー・コメント」とは、質問や取材に対して、回答を拒否することを意味します。報道機関による取材や記者会見の他にも、裁判、ビジネスの場、そして個人的な日常会話などの場面で習慣的に用いられています。
ノー・コメントは、必ずしも否定を意味するものではありません。とはいっても回答を避けることで、憶測や批判を招く可能性も十分にあります。
2. ノー・コメントが許されるケース
ノー・コメントは、以下のようなケースで許容されることがあります。
これらのケースでは、ノー・コメントを選択することが、個人の権利や組織の利益を守るために必要となる場合があります。そもそも質問する側は、こうしたケースに該当すると分かっているのであれば、不用意に質問すること自体が基本的な認識不足であると言えます。あるいは報道機関としては面白くなるように陥れたいのかもしれません。
- 個人のプライバシーに関わる場合
- 個人のプライバシーを侵害する可能性のある質問
- 家族や親族など、第三者のプライバシーに関わる質問
- !:名誉棄損や信用棄損、人間関係の悪化につながりかねません。
- 法的な制約がある場合
- 捜査中の事件や裁判中の事案に関する質問
- 守秘義務のある情報に関する質問
- 証言拒否権が認められる場合
- !:捜査や裁判に悪影響を及ぼしたり、重大な信用失墜等になります。
- 企業の機密情報に関わる場合
- 企業の営業秘密や技術情報に関わる質問
- 株価に影響を与える可能性のある情報に関する質問
- 契約上の守秘義務がある場合
- !:市場での優位性、法的守秘義務や利益関係者との関係に悪影響。
- その他
- 回答によって不利益を被る可能性のある場合 (確信が持てない場合など)
- 回答する義務がないと判断した場合 (噂や仮定に基づく質問など)
- 質問自体が不適切であると判断した場合 (いわゆる修辞疑問。実態は罵倒や皮肉になっている場合など)
3. ノー・コメントが社会に与える影響
一方で、ノー・コメントを乱用することは、社会に以下のような悪影響を与える可能性も想定されます。特に、説明責任が求められる立場にある人物や組織がノー・コメントを貫く場合、その責任はより重くなります。
- 情報公開の阻害
- 国民の「知る権利」が侵害される
- 社会の透明性が損なわれる
- 不信感の増大
- 情報隠蔽や責任逃れと受け取られる
- 社会の不信感を招く
- 憶測や批判の増幅
- 情報不足から、憶測や批判が広がる
- 誤った情報が拡散する
4. 報道機関の役割
報道機関は、国民の「知る権利」に応えるために、ノー・コメントに対しても粘り強く情報公開を求め、多角的な取材を通じて真相解明に努める必要があります。 また、ノー・コメントによって生じる情報格差を埋めるために、専門家への取材や資料分析などを通じて、客観的な情報を提供することが求められます。
5. 説明責任を果たすために
ノーコメントを多用することは、説明責任を果たしているとは言えません。説明責任を果たすためには、以下のような対応が求められます。企業や地方自治体では、規模の大小はあっても、広報や渉外、法務などの部門が対応手順や対策会議運営を具体的に取り決めておくべきでしょう。
- 情報公開の原則
- 透明性の高い情報公開を心がける
- 国民への説明責任を果たす
- 誠実な対応
- 質問に対して、誠実かつ丁寧に回答する
- 回答できない場合は、理由を明確に説明する
- 積極的な情報発信
- 記者会見やプレスリリースなどを活用し、日頃から積極的に情報発信する
- SNSなどを活用し情報発信する。
6. 「知る権利」が尊重される社会へ
ノー・コメントが許容される場合があるという社会的認識と同時に、日本社会で説明責任を果たす風土や「知る権利」が尊重される社会を築くためには、以下の制度や教育が追加的に必要と考えられます。これらの制度や教育を通じて、情報公開と説明責任を重視する社会を構築していくことが重要でしょう。
- 情報公開制度の強化
- 情報公開法の改正
- 独立行政法人等の情報公開
- 企業の情報公開
- 教育の強化
- メディアリテラシー教育
- 市民教育
- ジャーナリズム教育
- 法教育
- 説明責任を果たす風土の醸成
- 倫理基準の明確化
- 内部告発制度の充実
- 社会的監視の強化
- 報道機関の質の向上
- 報道倫理の確立
- 専門性の向上
- 多様な報道の実現
ノー・コメントは、個人の権利や組織の利益を守るために、やむを得ない選択となる場合があります。しかし、ノー・コメントは、情報公開の阻害や不信感の増大など、社会に負の影響を与える可能性もあります。
そして報道機関は、国民の「知る権利」を守るために、ノー・コメントに対しても粘り強く情報公開を求め、多角的な取材を通じて真相解明に努める必要があります。
私たち一人ひとりも、情報公開と説明責任の重要性を理解し、主体的に社会に関わっていくことが大切です。