今年(2025年)の10月14日にWindows10のサポートが終了することへの準備として、新しいPCを買い、いくつかのアプリケーションの導入作業をしていて気になった点があります。それは、以下の取引契約の条文を確認して同意してください、という主旨の手続きです。これについてはおそらくほとんどの利用者が、全文を慎重に読み、内容解釈の疑問点について個々に照会するようなことはしていないと思います。仮に少しくらい不利な条項があったとしても、会社と個別交渉できる余地も無さそうですし、現代社会では消費者保護に関する基本的な法律があるので、ひとつの社会通念として信じて同意することになるでしょう。
しかし学生時代に社会科や法律学の授業では、「権利の上に眠るものは、法によって保護されない」という言葉を習ったことをふと思い出しました。本来は簡単に同意してはいけなかったのかも......
「権利の上に眠る者は、法によって保護されない」とは?
この言葉は、ドイツの法学者イェーリング(1818~1892)の著書「権利のための闘争」(1872) に由来し、「権利は主張し、行使しなければ、いずれ失われてしまう」という意味です。例えば、お金の貸し借りがあった場合、貸主が長期間返済を求めなければ、借主は返済を免れることがあります。これは、貸主が権利(返済を求める権利)を長期間行使しなかったため、法律がその権利を保護しなくなったためです。いわゆる民法上の「時効」ですね。
現代社会は「権利の上に眠る」リスクがいっぱい?
しかし、現代社会は、私たちが思っている以上に複雑かつ多くの法律や制度、契約で溢れています。日常生活を送る上で、私たちは様々な契約を結び、多くの法律に守られ、または縛られています。 こうした状況は、私たちが「権利の上に眠る」ことを意図していなくても、結果的に権利を行使できなくなるリスクを高めています。「いやぁ、こんな細かいこと知らなかったよ。『無知は罪』とはいうけれど、何から何までは憶えていられないなぁ。」と言いたくなる場面がありそうです。
- 複雑な契約:
- 携帯電話の契約、インターネットプロバイダとの契約、クレジットカードの契約など、私たちは日々、複雑な契約を結んでいます。これらの契約書は、専門用語が多く、条文も細かいため、内容を十分に理解しないまま契約してしまうことがあります。
- 労働法制:
- 労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法など、労働者を守るための法律は数多く存在しますが、これらの法律は複雑で、労働者自身が自分の権利を正確に理解するのは容易ではありません。
- 消費者保護:
- 消費者契約法、特定商取引法など、消費者を守るための法律も存在しますが、悪質な事業者は、これらの法律の抜け穴を突き、消費者を騙そうとします。
具体例で見る「権利の上に眠る」リスク
以下の例のように、被害者が権利を十分に理解し、行使することができなかったために、本来であれば受けられたはずの法的保護を受けられなかったケースは現実に発生しうるものです。
- 未払い残業代:
- 労働者が、自身の労働時間や残業代の計算方法を十分に理解しておらず、未払い残業代を請求せずに泣き寝入りしてしまうケース。
- 悪質な訪問販売:
- 高齢者が、悪質な訪問販売員に騙され、高額な商品を購入してしまうケース。
- 個人情報漏洩:
- インターネットサービスから個人情報が漏洩したにもかかわらず、被害者が適切な対応を取らず、二次被害に遭うケース。
私たちにできること
では、私たちはどのようにすれば「権利の上に眠る」リスクを回避し、自分の権利を守ることができるのでしょうか? 結局のところ「情報弱者」はいつでも不利益を受ける可能性が高くなる、という厳しい現実があるということなのかもしれません。
- 契約書はよく読む:
- 可能な場合は、契約を結ぶ前に、契約書の内容をよく読み、不明な点は業者に質問しましょう。
- 労働法制を学ぶ:
- 労働組合や労働相談窓口を活用し、自分の権利について学びましょう。
- 消費者ホットラインを活用する:
- 消費者トラブルに巻き込まれた場合は、消費者ホットライン「188」に相談しましょう。
- 情報収集を怠らない:
- 日頃からニュースや新聞を確認し、新しい法律や制度について知るようにしましょう。
まとめ
「権利の上に眠る者は、法によって保護されない」という言葉は、権利行使の重要性を示すと同時に、現代社会における権利擁護の難しさも示唆しています。私たち一人ひとりが、自分の権利について学び、積極的に行動することで、より公正で安心な社会を実現できるはずです。