毎日、広告や店頭で「日本人にとって不足がちなxxxxを補充!」や「xxxの取り過ぎは要注意!」といった、食品に関する情報を多く目にします。 しかしこうした情報は基本的に個別の栄養素を焦点にしているため、(結局のところ、より摂取すべき栄養素は何と何で、制限すべき栄養素はどれとどれなのか?)という課題の全体像を把握し難くなっているように感じていました。
そこで今回は、健康的な食生活の第一歩として、「入門・健康のための栄養学」と題し、課題の全体像を掴めるよう分かりやすくまとめて解説してみましたのでご覧ください。
現代日本人の死亡原因と食生活
まず、私たちが健康を考える上で避けて通れないのが、病気のリスクです。厚生労働省のデータによると、現代日本人の死亡原因の上位5種は以下のようになっています(令和3年)。
- 悪性新生物(がん)
- 心疾患
- 脳血管疾患
- 老衰
- 肺炎
これらの病気の中には、日々の食生活を見直すことでリスクを軽減できるものが多くあります。それぞれの病気のリスクを下げるために、意識して摂取したい栄養素、そして控えるべき栄養素を見ていきましょう。
1. 悪性新生物(がん)のリスク軽減
- 積極的に摂りたい栄養素:
- 食物繊維: ごぼう、きのこ類、海藻類、玄米などに豊富。腸内環境を整え、特定のがんのリスクを下げると言われています。
- 抗酸化ビタミン(ビタミンC、E、β-カロテン): 緑黄色野菜、果物、ナッツ類に多く含まれ、細胞の酸化を防ぐ働きが期待されます。
- フィトケミカル(ポリフェノール、カロテノイド): 野菜や果物の色素成分などに含まれ、抗酸化作用や抗炎症作用が研究されています。
- 控えめにしたい栄養素:
- 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸: バター、ラード、加工食品などに多く、特定のがんのリスクを高める可能性があります。
- 焦げ付いた食品、加工肉: 発がん性物質が含まれる場合があるので、摂取を控えましょう。
- アルコール: 飲み過ぎは様々ながんのリスクを高めます。
2. 心疾患のリスク軽減
- 積極的に摂りたい栄養素:
- 不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸:EPA、DHA): 青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に豊富。血液をサラサラにする、血管を強くするなどの効果が期待されます。
- 食物繊維: 野菜、果物、豆類に多く、コレステロール値を下げるのに役立ちます。
- カリウム: 野菜、果物に多く、血圧を下げる効果が期待されます。
- マグネシウム: 海藻類、ナッツ類に多く、血圧や血糖値のコントロールに関わります。
- 控えめにしたい栄養素:
- 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸: 肉の脂身、バター、加工食品に多く、悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を促進します。
- ナトリウム(食塩): 塩分の摂りすぎは高血圧の大きな原因となります。
3. 脳血管疾患のリスク軽減
- 積極的に摂りたい栄養素:
- カリウム: 野菜、果物に多く、血圧を下げる効果が期待されます。
- 食物繊維: 野菜、果物、豆類に多く、血圧やコレステロール値の改善に役立ちます。
- マグネシウム: 海藻類、ナッツ類に多く、血圧のコントロールに関わります。
- 控えめにしたい栄養素:
- ナトリウム(食塩): 高血圧は脳血管疾患の大きなリスク要因です。
- 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸: 動脈硬化を促進し、脳血管疾患のリスクを高めます。
- アルコール: 過度な飲酒は脳卒中のリスクを高める可能性があります。
4. 老衰のリスク軽減(健康寿命の延伸)
- 老衰そのものを防ぐことはできませんが、健康寿命を延ばし、元気な老後を送るためにはバランスの取れた食事が不可欠です。
- 積極的に摂りたい栄養素:
- 良質なタンパク質: 肉、魚、卵、大豆製品などに多く、筋肉量の維持に重要です。
- カルシウム、ビタミンD: 乳製品、小魚、きのこ類に多く、骨粗鬆症を予防し、骨折のリスクを減らします。
- 抗酸化ビタミン、ミネラル: 全身の機能を維持し、老化の進行を緩やかにする可能性があります。
5. 肺炎のリスク軽減(免疫力の維持)
- 肺炎のリスクを下げるためには、免疫力を維持することが大切です。
- 積極的に摂りたい栄養素:
- タンパク質: 免疫細胞の材料となります。
- ビタミンA: 皮膚や粘膜を丈夫にし、細菌やウイルスの侵入を防ぎます(緑黄色野菜、レバーなど)。
- ビタミンC: 免疫細胞の機能を高めます(果物、野菜など)。
- ビタミンE: 抗酸化作用で免疫細胞を守ります(ナッツ類、植物油など)。
- 亜鉛: 免疫機能に関わる酵素の働きを助けます(牡蠣、赤身肉など)。
栄養素についてはかなり重複が確認できたと思います。このように、上位5種の死亡原因のリスクを下げるためには、特定の栄養素を意識して摂取したり、控えたりすることが大切と考えられています。
栄養学の基本
次にあらためて基礎から、健康な体を維持するために欠かせない「五大栄養素」について解説しましょう。これらは、私たちの生命活動を支える基本的な要素です。最初の3種(炭水化物・脂質・タンパク質)については常識として定着していると思いますが、ビタミンとミネラルについては機能が多様になるためにあまり詳細までは覚えられていないのではないかと思います。
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炭水化物(糖質)
- 主な働き: 体の主要なエネルギー源です。特に脳や神経系の活動に不可欠です。
- 種類: 米、パン、麺類などに含まれるデンプン、果物などに含まれる果糖、乳製品に含まれる乳糖などがあります。
- ポイント: 血糖値の急激な上昇を避けるため、精製された白い炭水化物だけでなく、食物繊維を多く含む玄米や全粒粉などを積極的に摂りましょう。
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脂質
- 主な働き: エネルギー源となるほか、細胞膜の構成成分やホルモンの合成にも関わります。脂溶性ビタミンの吸収を助ける働きも。
- 種類: バターや肉の脂などに多い飽和脂肪酸、植物油や魚油に含まれる不飽和脂肪酸などがあります。
- ポイント: 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂りすぎは生活習慣病のリスクを高めます。不飽和脂肪酸、特にn-3系脂肪酸(EPA、DHA)を意識して摂りましょう。
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タンパク質
- 主な働き: 筋肉、骨、皮膚、髪の毛など、体の組織を作る主要な成分です。酵素やホルモン、免疫物質などの材料にもなります。
- 種類: 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに豊富に含まれています。
- ポイント: バランスの良い食事の中で、様々なタンパク質源から必要な量を摂取することが大切です。
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ビタミン
- 主な働き: 体の機能を正常に保つために必要な有機化合物です。エネルギー源にはなりませんが、他の栄養素の代謝を助けるなど、様々な生理機能に関わっています。
- 種類: 水溶性ビタミン(ビタミンB群、C)と脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)があります。
- ポイント: バランスの取れた食事をしていれば、基本的には不足しにくいですが、偏った食生活では不足することがあります。
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ミネラル(無機質)
- 主な働き: 骨や歯の構成成分となるほか、体液のバランス調整や神経伝達など、様々な生理機能に関わります。
- 種類: カルシウム、鉄、カリウム、ナトリウムなど、多くの種類があります。
- ポイント: 微量でも体にとって重要な役割を果たしています。不足すると様々な体の不調につながることがあります。
近年では、これら五大栄養素に加えて、食物繊維が第六の栄養素として注目されています。食物繊維は、腸内環境を整えるだけでなく、血糖値の急激な上昇を抑えたり、コレステロール値を下げる効果も期待されています。
ちなみに、「栄養素」という切り口とは別に発酵食品は、プロバイオティクスやプレバイオティクスの供給、消化吸収の促進、栄養価の向上など、栄養学的な観点からも多くのメリットが期待できるとされている点も覚えておきましょう。
摂りすぎと不足しがちな栄養素
最後に、現代の日本人が食事で摂りすぎている傾向のある栄養素と、不足しがちな栄養素について見ていきましょう。
摂りすぎている傾向のある栄養素
- ナトリウム(食塩): ラーメンのスープ、漬物、加工食品などに多く含まれ、高血圧のリスクを高めます。
- 飽和脂肪酸: 肉の脂身、バター、スナック菓子などに多く、悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を促進します。
- 糖類(特に砂糖や異性化糖): 清涼飲料水、お菓子、加工食品などに多く、肥満や糖尿病のリスクを高めます。
これらの栄養素は、意識して摂取量を減らすように心がけましょう。調理の際に塩分を控えたり、加工食品の摂取頻度を減らしたり、甘い飲み物を水やお茶に変えるなどの工夫が大切です。
不足しがちな栄養素
- 食物繊維: 野菜、果物、きのこ類、海藻類、豆類などの摂取不足が原因で、便秘や生活習慣病のリスクを高めます。
- カルシウム: 乳製品の摂取不足などで、骨粗鬆症のリスクを高めます。
- 鉄: 特に若い女性で不足しがちで、貧血の原因になります。
- ビタミンD: 日光を浴びる機会の減少や魚介類の摂取不足で不足しがちです。骨の健康維持に重要です。
- カリウム: 野菜や果物の摂取不足で、高血圧のリスクを高めます。
これらの栄養素は、日々の食事で積極的に摂るように心がけましょう。野菜をたっぷり使った料理を取り入れたり、意識して乳製品や魚介類を食べるようにするなど、食生活の改善を試みましょう。
バランスの取れた食事が健康への第一歩
今回は、「入門・健康のための栄養学」として、現代日本人の死亡原因と食生活、五大栄養素の基本、そして摂取過不足の栄養素についてまとめてみました。
私たちの体は、日々の食事から摂る栄養素でできています。バランスの取れた食事を心がけることは、病気のリスクを減らし、健康で豊かな生活を送るための第一歩です。
今日からできることから、少しずつ食生活を見直してみませんか?今回の情報が、皆さんの健康的な食生活のスタートとなれば幸いです。