AirLand-Battleの日記

思い付きや素朴な疑問、常識の整理など、特段のテーマを決めずに書いております。

当事者意識を育てる質問

 アメリカの学校では、社会科や公民科などの授業の中で、生徒に対して「もしあなたが大統領になったら、何をしたいですか?」という質問が投げかけられることがあるそうです。これは、単なる空想力を試すものではなく、深い教育的な目的を持っていると考えられます。

 おそらくアメリカの教育で、早い段階から生徒が社会の一員としての意識を持つように、積極的に意見を発信するように、社会に関与するようになることを重視していることが伺えます。この質問は、そのための重要なステップとして位置づけられていると言えるでしょう。(もちろん大統領以外に州知事やどこかの会社の社長でも可。)

 

この質問の主な教育目的

  1. 批判的思考力と問題解決能力の育成:  生徒は、大統領という立場から社会の課題を捉え、どのように解決していくかを考えることで、多角的な視点と論理的な思考力を養います。
  2. 創造性と想像力の涵養:  現実の制約を超えて、理想の社会や政策を自由に構想する経験は、生徒の創造性や想像力を刺激します。
  3. コミュニケーション能力と表現力の向上:  自分の考えを言葉や文章で表現する過程で、論理的な構成力や説得力のある伝え方を学びます。
  4. 市民意識と政治参加への意識の醸成:  大統領という国のリーダーの視点を持つことで、政治や社会の仕組みへの関心を高め、将来の市民としての責任感を育みます。
  5. 自己理解と価値観の明確化:  自分が何を大切にし、どのような社会を望むのかを考えることは、自己理解を深め、自身の価値観を明確にする良い機会となります。

 

しかし日本の教育現場では...

 では、この「もしあなたが大統領だったら?」という問いかけを、そのまま日本の教育現場に持ち込んだ場合、どのような反応が予想されるでしょうか。「もしあなたが内閣総理大臣になったら、何をしたいですか?」という問いかけに対して、残念ながらアメリカほど歓迎されない可能性が高いと考えられます。それは下のような反対意見のハードルが十分に予想されるからです。

 

予想される反対意見

  1. 政治的中立性への懸念:  日本の教育現場では、政治的な中立性が強く求められます。内閣総理大臣という特定の政治的役職をテーマに扱うことは、特定の政党や政治思想への誘導と捉えられかねません。教師や教育委員会は、生徒に偏った思想を植え付けるリスクを懸念するでしょう。
  2. 現実味の薄さと生徒の関心:  内閣総理大臣という存在は、多くの中高生にとって遠い存在であり、現実感が薄いと感じられる可能性があります。より身近な学校生活や地域社会の問題に比べて、生徒の関心を引き出しにくいかもしれません。
  3. 模範解答偏重の文化:  日本の教育においては、正解や模範解答を重視する傾向が依然として強く残っています。十分な知識や理解がない状態で、自分の意見を発言することに生徒が躊躇を感じる文化があります。「間違ったことを言ったらどうしよう」という不安が、自由な発想を妨げる可能性があります。
  4. 政治的議論への抵抗感:  日本社会全体として、政治的な議論を避ける傾向や、感情的な対立に発展しやすいというイメージがあります。教育現場で政治的なテーマを扱うことに対して、保護者や社会の一部から懸念の声が上がる可能性も否定できません。
  5. 生徒の発達段階への懸念:  内閣総理大臣の職務は非常に多岐にわたり、その複雑さを中高生が十分に理解するには難しいという意見も出るでしょう。生徒の発達段階に合わせたテーマ設定の必要性が指摘される可能性があります。

 

それでも「当事者意識を育てる質問」を

 しかし上記の反対意見を十分に考慮した上であっても、「もしあなたが〇〇だったら?」という形式の質問を日本の教育現場に導入し、普及させることは、生徒の当事者意識を育み、より良い社会を築く上で大きな可能性を秘めていると考えます。

  1. 当事者意識の醸成:

    • 自分が特定の立場になったと仮定して考えることで、生徒はこれまで他人事として捉えていた社会の課題や組織の運営に対して、主体的な意識を持つようになります。「もし自分だったらどうするか」という視点は、問題解決への第一歩です。
  2. 責任ある行動の促進:

    • 自分がその立場になった時の影響力を想像することで、安易な批判や無責任な言動を抑制する効果が期待できます。「もし自分がこの政策を実行したら、どのようなメリットとデメリットがあるだろうか?」と考えることで、より慎重で責任ある行動を選択する力が養われます。
  3. 有益な議論のルールの理解:

    • 他者の立場を想像し、異なる視点から物事を考える経験は、多様な意見の存在を理解し、尊重する心を育みます。感情的な対立ではなく、論理的な議論を通じて合意形成を目指すことの重要性を学ぶことができます。

 

導入にに向けた方策

 「もしあなたが〇〇だったら?」という質問を日本の教育現場に導入しようとするのであれば、どうしてもいくつかのステップと工夫が必要になるでしょう。

  1. テーマの段階的な設定:  まずは、生徒にとって身近なテーマから始め、徐々に社会的なテーマへと広げていくことが重要です。学校生活、地域社会、そして最終的に国や地球規模の課題へと、段階的に視野を広げることで、生徒は無理なく当事者意識を育むことができます。
  2. 政治的中立性の確保:  政治的なテーマを扱う際には、特定の政党や思想に偏らないよう、慎重な配慮が必要です。様々な立場からの意見を紹介したり、生徒自身の多角的な視点を促すような指導を心がける必要があります。
  3. 正解のない問いへの挑戦:  教師自身が、正解を求めるのではなく、生徒の自由な発想や多様な意見を歓迎する姿勢を持つことが重要です。生徒の意見に対して、「なぜそう思うのか」「他にどのような考え方があるか」といった問いかけを通じて、思考を深めるサポートを心がけましょう。評価も、意見の内容だけでなく、思考のプロセスや表現力、議論への参加意欲などを総合的に行う必要があります。
  4. 議論と対話の重視:  生徒同士が自分の考えを共有し、議論する機会を積極的に設けることが重要です。他者の意見を聞き、自分の意見を修正したり、新たな視点を発見したりする経験を通じて、より深い学びを得ることができます。

まとめ

 日本の教育現場には、模範解答を重視する文化や政治的テーマへの慎重さなど、導入にあたって考慮すべき点は多くありますが、工夫次第で生徒の当事者意識、責任感、そして建設的な議論の能力を育むための強力な学習教材となり得ると考えています。

 未来を担う子供たちが、社会の一員として積極的に関わり、より良い社会を築いていくために、「当事者意識を育てる質問」を教育に取り入れる意義は大きいのではないでしょうか。私たち大人も、子供たちの自由な発想を尊重し、共に考え、議論する姿勢を持つことが大切だと感じます。