つい最近のこと、駅のすぐ近くでデモ行進を目撃しました。何を訴えていたのかは、よく分からず、周辺で3・4人の警察官が交通整理をしていて大変そうでした。そう、個人的には公務員である警察官の労働環境に同情し、デモ行進自体には意味が無かったということです。活動メンバーの結束を固めるためのイベントであれば、効果はあったのかもしれません。ともかく、感じ方や考え方は人それぞれとはいえ、「デモ行進」による呼びかけの効果には疑問を感じます。それでは、いったいどのような抗議活動や意見表明方法であれば、広く国民や政治家に届くのでしょうか?
今回は、こうした活動について事例を具体的に見ながら、私たちの声が本当に社会に届かせるために、何が大切なのかを一緒に考え直してみたいと思います。
信頼を揺るがす事例
私たちの意見表明が、必ずしもスムーズに社会に届いているとは言えない現実があります。いくつかの事例を見てみましょう。
2022年10月、沖縄県の新基地建設反対の座り込み活動の現場を訪れた人の話が話題になりました。長期間にわたる座り込みを象徴する「〇〇〇〇日」という看板が掲げられていたにもかかわらず、実際に座り込んでいる人の姿はなかったというのです。もちろん、長年の活動の象徴として看板を掲げること自体は理解できます。しかし、もしそれが実態と大きくかけ離れているとしたら、「本当にそこで活動している人たちはいるのだろうか?」「私たちの声はきちんと届いているのだろうか?」と、活動全体の信頼性を揺るがしかねません。公共の道路を使う座り込みは、通行の妨げになる可能性もあり、事前に警察への届け出が必要です。計画性と周囲への配慮があってこそ、活動は社会の理解を得やすくなります。
他にも、民主主義の根幹を揺るがすような出来事もありました。2020年10月、愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動で、多くのアルバイトが動員され、署名が大量に偽造されたという事件が発覚したのです。リコールは、住民が首長や議員を辞めさせるかどうかを問う、非常に重要な権利です。その署名が偽造されるということは、私たちの民主的な権利が踏みにじられたと言っても過言ではありません。地方自治法には、署名偽造に対する罰則も定められています。不正のない、クリーンな活動こそが、私たちの声を正しく社会に届けるための大前提です。
また、私たちの声が、政治の場に届きにくいと感じることもあるかもしれません。2022年6月、埼玉県議会がLGBTに関する条例案を提出しようとした際、別途事前にパブリックコメントが募集されていました。その結果、4747件のコメントのうち、なんと約87%にあたる4120件が条例案への「反対」意見だったと報道されました。これだけ多くの人が真剣に意見を寄せたにもかかわらず、議員たちは反対意見を十分に考慮したとは言えないまま、条例案を提出する決定をしたのです。「せっかく時間をかけて意見を書いたのに、結局はアリバイ作りに過ぎなかったのか…」と感じた人もいるかもしれません。このような状況が続けば、「もうパブリックコメントを書いても無駄だ」と感じ、積極的に意見を表明しようとする人が減ってしまうのではないかと懸念されます。
そして冒頭のような、街頭で見かける小規模なデモ行進。数十人規模のデモのために、警察官が交通整理をしている光景を目にすることもあります。もちろん、安全確保のために警察の協力は不可欠です。しかし、客観的に見ると、平日の昼間に少人数で行うデモが、どれだけの社会的な影響力を持っているのか疑問に感じる人もいるかもしれません。「もっと多くの人に訴えかけるためには、人数を増やしたり、注目を集める場所や時間帯を選んだりする方が効果的なのではないか?」と感じるのも自然な疑問でしょう。
活動する普通の国民に求められること
上記の事例から、私たちがより効果的に、そして社会からの信頼を得て意見表明を行うためには、いくつかの重要なポイントがあることがわかります。
第一に、「信頼」を築くこと。活動の目的や方法を明確にし、不正やごまかしのない、誠実な活動を心がける必要があります。署名活動であれば、集めた署名を丁寧に管理し、偽造など絶対に許されない行為は排除しなければなりません。座り込みなどの活動であれば、実態と異なる情報を発信することは避け、正確な情報を伝えることが大切です。
第二に、「法とルールを守る」こと。デモ行進であれば道路使用許可をきちんと取得し、警察の指示に従うのは当然のことです。署名活動や集会など、他の活動においても、関連する法律や条例を遵守し、社会の秩序を守る意識を持つことが重要です。
他の国の事例では、デモや集会に集まった人の一部が暴徒化して警察官とぶつかったり、周辺の車や商店を破壊したり放火したりといった事態につながることも発生しています。活動を主催する人は、参加者を選び、確実にコントロールする必要があることを肝に銘じる必要があります。暴力的な行為は、私たちの主張を社会に届けるどころか、反感や不信感を招き、活動の正当性を損なうだけです。常に冷静で平和的な手段を選び、理性的な議論を心がけることが大切です。
第三に、「戦略的に考える」こと。私たちの声が誰に届けば、社会が変わるのか。そのターゲット層に響くメッセージとは何か。そして、最も効果的な手段は何なのか。デモ行進であれば、時間帯や場所、人数、訴えかける内容などを戦略的に検討する必要があります。オンライン署名やSNSでの発信など、多様なツールを組み合わせることも有効でしょう。
第四に、「対話と理解を求める」こと。私たちの意見に賛同する人だけでなく、反対意見を持つ人や、まだ関心のない人たちにも、私たちの思いを丁寧に伝え、理解を求める努力が必要です。感情的な訴えだけでなく、客観的なデータや論理的な説明を用いることで、より多くの人の心に響くはずです。
1980年代にはしばしば国鉄(現・JR)の電線などの設備を破壊するという、抗議活動がありました。もちろん違法な活動方法ですが、この活動で通勤・通学に多大な迷惑をかけておいて、その抗議についての理解が進んだり、メッセージが伝わって世論が変わったとはとても考えられません。「抗議活動や政治活動をする組織や集団のは、理解不能な変わった人達」という印象だけが強くなったのではないかと思っています。
おわりに
政治的な意見表明は、決して簡単なことではありません。時には、私たちの声がすぐに社会に届かないと感じることもあるかもしれません。それでも、諦めずに声を上げ続けること、そして、より良い伝え方を模索し続けることが大切です。
私たちの小さな一歩が、いつか社会を大きく動かす力になる。そう信じて、それぞれの場所で、それぞれの方法で、社会との関わりを続けていきましょう。私たちの声は、きっと未来を創る力になるはずです。