AirLand-Battleの日記

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疑問を感じるインタビュー術

 時に耳にする「相手を怒らせる」「わざと的外れなことを言って訂正させる」というインタビューのテクニックについて、今回少し掘り下げて検証したいと思います。

 

挑発型インタビュー術のメリットとデメリット

 インタビューは、単なる質問と回答の応酬ではありません。それは質問者(インタビュアー)と回答者(インタビュイー)という二人の人間が織りなす、複雑なコミュニケーションのドラマです。その過程で、時に「相手を怒らせる」「わざと的外れなことを言って訂正させる」という、一見すると強引で非倫理的な手法が語られることがあります。 このテクニックが広く知られているのは、以下のようなメリットが比較的容易に確保できると考えられているからでしょう。

  1. 感情の解放と本音の引き出し:  理性的な思考の壁を越え、感情が露わになる瞬間に、普段は隠されている本音や重要な情報が飛び出す可能性があると考えるのです。
  2. 記憶の鮮明化:  感情的な出来事は記憶に深く刻まれるため、後になって詳細な情報を思い出すきっかけになると期待するかもしれません。
  3. 相手の素顔の観察:  意図的な挑発に対する相手の反応を見ることで、その人の性格、忍耐力、コミュニケーション能力といった、表面的な情報だけでは見抜けない本質的な部分(あくまでも限られた一部分)を垣間見ることができると考えます。
  4. 隠された情報の炙り出し:  的外れな発言に対し、相手が感情的に強く否定したり、詳細な訂正を加えたりする場合、そこに重要な情報や強いこだわりが潜んでいると推測するのです。

しかし、これらのメリットには、同時に重大なデメリットを伴うことを覚悟しておく必要があります。

  1. 信頼関係の崩壊:  何よりも深刻なのは、相手との間に築かれるべき信頼という土台を根底から揺るがしてしまうことです。怒りや不快感を覚えた相手は、質問者に非協力的になり、情報の隠蔽や虚偽の証言に繋がる可能性が高まります。
  2. 倫理的な問題:  意図的に相手を不快にさせる行為は、倫理的な観点から強く非難されるべきです。インタビューは、相手への敬意と協力があってこそ成り立つべきだからです。
  3. 逆効果のリスク:  相手が冷静に対応したり、インタビューを打ち切ったりする可能性も十分に考えられます。また、感情的な混乱から、事実とは異なる情報が語られるリスクも無視できません。
  4. プロフェッショナルではない印象:  質問者の粗暴な態度は、自身の評価を下げるだけでなく、所属する組織全体の信頼を損なう可能性すらあります。
  5. 感情的なバイアス:  質問者自身の感情も高ぶり、客観的な判断が鈍る可能性があります。

 

なぜこうした手法が語り継がれるのか?

 このように多くのデメリットを抱えているにも関わらず、なぜ「相手を怒らせる」「的外れなことを言って訂正させる」という手法が、一部のジャーナリストや弁護士の間で語り継がれるのでしょうか。その背景には、必ずしも理想通りにはいかない現実の取材・尋問の厳しさがあると考えられます。

  • 強固な警戒心と敵意:  取材対象者や尋問対象者が、情報開示によって不利益を被る可能性を強く感じている場合、友好的なアプローチだけではなかなか口を開かせることが難しいことがあります。
  • 時間的制約:  特に報道の世界では、速報性や締め切りといった時間的な制約が厳しく、長期的な信頼関係を築くための時間的余裕がない場合があります。
  • 情報の秘匿性:  企業秘密や犯罪に関わる情報など、そもそも開示されることを前提としていない情報に対して、通常のコミュニケーションではアクセスが極めて困難です。
  • 認知の歪みや記憶の曖昧さ:  意図的な隠蔽でなくとも、相手の主観的な解釈や曖昧な記憶によって、事実に基づいた情報を得るのが難しいケースも存在します。
  • 競争原理:  特にジャーナリズムの世界では、他社よりも早く、よりインパクトのある情報を得るための競争原理が、時に強引な手法を誘発する可能性があります。

 

解答者・受け手としての賢明な対処法

 もし、インタビューを受ける立場になった際に、質問者が意図的に挑発的な態度を取ってきた場合、どのように対応するのが賢明でしょうか。

 最も重要なのは、冷静さを保つことです。相手の挑発に乗らず、感情的にならないように努めましょう。深呼吸をする、心の中で数えるなど、自分なりのクールダウン方法を持っておくと有効です。

 そして、インタビューを受ける目的を常に意識しましょう。感情的な反応によって、本来の目的を損なわないように心がけることが大切です。

 相手の意図を冷静に分析することも重要です。「なぜこの人はこのような質問をするのだろう?」「この発言の狙いは何だろう?」と考えることで、より適切な対応が見えてくるはずです。

 具体的な対処法としては、以下のようなものが考えられます。

  • スルーする:  明らかに感情的な挑発や的外れな発言に対しては、あえて反応しないという選択肢も有効です。
  • 冷静に反論する:  事実に基づいた反論は効果的ですが、感情的な言葉遣いは避け、論理的かつ客観的に自分の意見を述べることが重要です。
  • 質問の意図を尋ねる:  「なぜそのような質問をされるのですか?」「その発言の意図は何でしょうか?」と直接尋ねることで、相手の真意を探り、ペースを握り返すことができます。
  • 丁寧に訂正する:  的外れな発言に対して訂正を求められた場合は、感情的にならず、事実に基づいて丁寧に説明しましょう。
  • 記録を意識する:  可能であれば、インタビューの様子を録音・録画するなど、記録を残すことを意識しましょう。
  • 専門家に相談する:  あまりにも悪質な挑発や不当な質問が続く場合は、弁護士や広報担当者などの専門家に相談することも検討しましょう。
  • インタビューを中断する:  非常に無礼かつ粗野な質問者であって、身の危険を感じたり、精神的に耐えられないと感じたりした場合には、無理に続ける必要はありません。毅然とした態度で中断を申し出ることも重要な選択肢です。

 

第三者の視線の存在

 私たち第三者が、テレビなどで無礼な言葉遣いや挑発的な態度でインタビューを行うジャーナリストを目にしたとき、ジャーナリズム全体に対して「低俗」「不誠実」といったネガティブな印象を抱くのは自然なことです。

 意図的に相手を怒らせたり、的外れな発言をして訂正を促したりする手法は、短期的な注目度向上といったメリットがあるかもしれませんが、第三者の視点を考慮して長期的に見ると、ジャーナリズム全体の信頼を大きく損なうという深刻なデメリットを抱えています。倫理的な批判は避けられず、視聴者の離反、取材対象者の非協力化、報道機関のイメージ悪化(無礼で尊大で傲慢勝手なジャーナリストという印象)など、その代償は計り知れません。情報操作の疑念を持たれる可能性もあり、建設的な議論を阻害する要因にもなりかねません。

 

ジャーナリズムの基本は信頼と誠実さ

 大学などで教えられる「ジャーナリズム論」では、倫理観、客観性、正確性、公平性、そして取材対象者への敬意といった原則が、インタビューの基本として強調されます。真実の追求と報道、公正性と公平性、独立性、人権尊重といった倫理原則は、ジャーナリストが社会からの信頼を得るための根幹となるものです。

 十分な準備、明確な目的の提示、誠実な態度、傾聴の姿勢、オープンな質問、事実確認、正確な引用、相手への配慮といった取材・インタビューの原則は、質の高い情報を引き出すための基礎となります。

 そして、第三者の視点を常に意識し、客観性の追求、説明責任、公共的価値の重視といった視点を持つことが、社会からの信頼を得る上で不可欠なのです。

 

まとめ

 「相手を怒らせる」「わざと的外れなことを言って訂正させる」というインタビュー術は、時に質問者にとって魅力的に見えるかもしれません。しかし、その裏には、信頼という最も大切なものを失うリスクが潜んでいます。インタビューということを嫌う人が一定数いるのも、こうした不愉快な場面が実際にあるとすれば、頷けるところです。

 真のプロフェッショナルな質問者は、短期的な効果に目を奪われることなく、長期的な視点に立ち、倫理的な配慮を忘れずに、相手との間に信頼という名の架け橋を築きながら、質の高い情報を引き出す努力を続けるべきでしょう。ジャーナリストが尊敬されない社会になれば、それは結果として社会全体にとっての損失になる懸念があるのです。

 私たち第三者もまた、ジャーナリストの倫理観に常に目を光らせ、真摯な報道を支持していくことが、より健全な情報社会の実現に繋がるのではないでしょうか。