街を歩いていると、車椅子を利用されている方や、白い杖を持った方を見かけることがあります。そんな時、「何かお手伝いしたいけれど、どうすればいいんだろう?」と迷うことはありませんか?
インターネット上では時折り「日本人は民度が高い」などという意見も聞きますが、ある程度は相手を思いやる気持ちを持ち合わせているものの、具体的なサポートの方法や、どのような場面で困っているのかが分からず、声をかけるのをためらってしまうことが多いようです。
この記事では、車椅子の方、白い杖を持った方が街中でどのようなことに困っているのか、そして、私たちが比較的簡単で短時間でもできる具体的なサポート、その方法と注意点について、分かりやすく解説します。
以前に投稿した「身体障碍者に対する理解の乏しさ」の続編ないし各論ということで、よろしくお願いします。
なぜサポートをためらってしまうのか?
まず、私たちがサポートをためらってしまう背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 「おせっかい」への懸念と遠慮の文化: 日本には、相手に迷惑をかけたくない、干渉したくないという意識が根強くあります。「親切のつもりでしたことが、逆に相手の負担になるのでは?」という心配が、行動を躊躇させる要因の一つです。
- サポート方法への知識不足・自信のなさ: 具体的にどのようにサポートすれば良いのか分からない、間違った方法でかえって迷惑をかけてしまうのではないかという不安があります。「専門的な知識が必要なのでは?」という誤解も、行動を遠ざける原因になりえます。
- 失敗への恐れと責任感: サポートした結果、予期せぬ事態が起こってしまった場合の責任を考えると、積極的に関わることを躊躇してしまうことがあります。
- プライバシー尊重の意識: 障碍のある方も含め、他人のプライバシーを尊重する意識が強く、「安易に踏み込むべきではない」という考え方が働くことがあります。
しかし、これらの要因がある一方で、私たちは決して冷淡な国民性ではないと信じています。災害時には助け合いの精神を発揮しますし、心の中では「何かできることはないか」と感じている人も多いはずです。
車椅子の方が街中で困るケース
車椅子を利用されている方が街中で困るケースは、移動、施設の利用、コミュニケーションなど、多岐にわたります。
移動の困難さ:
- 段差や階段: わずかな段差や階段でも、車椅子にとっては大きな障壁です。スロープがない、あっても急すぎる、または狭すぎるといった場合も同様です。
- 狭い通路や出入り口: 店内や公共施設の通路が狭く、車椅子が通れない、または通りにくいことがあります。自動ドアの幅が狭い、回転ドアしかないなども困ります。
- 凸凹のある路面や砂利道: 車輪が引っかかったり、振動が大きかったりして、スムーズな移動が困難です。
- 公共交通機関の利用: 駅のホームと車両の間に段差や隙間がある、エレベーターやエスカレーターの設置がない、または場所が分かりにくい、バスの乗降が難しいなど、公共交通機関の利用には多くの課題があります。
- 駐車場: 車椅子使用者用の駐車スペースが少ない、または遠い、幅が狭くて乗り降りがしにくいといった問題があります。
施設の利用の困難さ:
- 高い場所にあるもの: 店の商品や券売機のボタン、ATMの操作パネルなどが高すぎて手が届かないことがあります。
- 狭いトイレ: 車椅子で入れるトイレが少ない、またはあってもスペースが狭く、介助者と一緒に入れないことがあります。
- テーブルやカウンターの高さ: レストランやカフェのテーブルが高すぎる、または足が入らない、カウンターが高すぎて店員とコミュニケーションが取りにくいことがあります。
- 試着室: 車椅子で入れる試着室がない、または狭くて着替えが困難な場合があります。
コミュニケーションの困難さ:
- 騒がしい場所での会話: 周囲の騒音で声が聞こえにくいことがあります。
- 低い位置からの会話: 立っている人との会話では、常に首を上げて話す必要があり、負担になります。
その他:
- 雨の日: 車椅子での移動は雨具の着用が難しく、操作も滑りやすくなるため危険が増します。
- 冬の雪や凍結: 路面状況が悪化し、移動が非常に困難になります。
白い杖を持った方が街中で困るケース
白い杖は、視覚に障害のある方にとって、大切な「目の代わり」となる道具です。しかし、街中には様々な危険や不便が存在します。
移動の困難さ:
- 段差や溝、障害物: 白い杖で確認しきれない小さな段差や溝、予期せぬ場所に置かれた荷物や看板などに躓いたり、ぶつかったりする危険があります。
- 工事現場や危険な場所: 十分な案内表示やバリケードがない場合、誤って立ち入ってしまう可能性があります。
- 音による情報不足: 周囲の騒音で、車の音や人の声など、必要な情報が聞き取りにくいことがあります。
- 公共交通機関の利用: 駅のホームの端や電車の乗り降りの際の段差、バスの停留所の位置などが分かりにくいことがあります。
- 方向感覚の喪失: 広場や複雑な構造の場所では、方向感覚を失いやすいことがあります。
情報の取得の困難さ:
- 案内表示の不備: 文字が小さすぎる、点字がない、音声案内がないなど、情報が得られないことがあります。
- 口頭説明の不明瞭さ: あいまいな表現や早口での説明は理解しにくいことがあります。
- 触覚による情報不足: 商品の形状や配置などが分かりにくいことがあります。
コミュニケーションの困難さ:
- 気づかれにくい: 周囲の人が白い杖に気づかず、ぶつかってしまうことがあります。
- 声をかけにくい雰囲気: 周囲の人がどのように声をかけて良いか分からず、サポートをためらってしまうことがあります。
その他:
- 雨の日: 路面が滑りやすくなるだけでなく、白い杖が濡れて重くなったり、視界が悪くなったりします。
- 混雑した場所: 人との接触が多くなり、安全な歩行が困難になります。
- 変化の多い環境: 工事などで歩道の状況が頻繁に変わる場所では、対応が難しくなります。
短時間でできる具体的なサポートとその注意点
それでは、実際に街中で車椅子の方や白い杖を持った方を見かけた際に、私たちが短時間でできる具体的なサポートと、その際の注意点を見ていきましょう。
車椅子の方へのサポート
具体例:
- 段差や溝を乗り越える際のお手伝い: 車椅子の前輪を少し持ち上げたり、後ろから軽く押したりすることで、スムーズに乗り越えることができます。
- 扉の開閉: ドアを開けて支えておいたり、通り抜けられるように開け放しておいたりするだけでも助かります。
- 高い場所にある物の受け渡し: 本や商品など、手の届かない場所にある物を代わりに取って渡すことができます。
- 困っている様子の時の声かけ: 「何かお手伝いできることはありますか?」と優しく声をかけてみましょう。
具体的な方法:
- 声をかける: まずは「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけ、相手の意思を確認します。
- 指示を仰ぐ: サポートが必要な場合でも、どのように手伝ってほしいかは人それぞれです。必ず「どのようにすれば良いですか?」と具体的に尋ねましょう。
- 無理のない範囲で: ご自身の体調や状況に合わせて、無理のない範囲でサポートしましょう。
注意点:
- 許可なく触らない: 車椅子は体の一部です。必ず声をかけて許可を得てから触るようにしましょう。
- 急な動作は避ける: 急に押したり引いたりすると、バランスを崩す可能性があります。ゆっくりとした動作を心がけましょう。
- 正面から声をかける: 後ろから声をかけると、驚かせてしまうことがあります。できるだけ正面から声をかけましょう。
- 目線を合わせる: 可能であれば、しゃがむなどして目線を合わせて話すと、より丁寧な印象になります。
白い杖を持った方へのサポート
具体例:
- 道案内: 行きたい方向や場所が分からず困っている場合に、安全な道順を言葉で伝えたり、一緒に少し歩いたりするのも良いでしょう。
- 障害物の告知: 前方に段差や溝、電柱などがあることを具体的に伝え、「〇〇の先に△△があります」のように分かりやすく伝えましょう。
- 困っている様子の時の声かけ: 「何かお困りですか?」と優しく声をかけてみましょう。
具体的な方法:
- 声をかける: まずは「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかけ、相手の意思を確認します。
- 具体的な状況を説明する: 進行方向にある障害物や曲がり角などを具体的に言葉で伝えましょう。
- 誘導する場合は腕を貸す: 必要に応じて、ご自身の腕を軽く掴んでもらい、半歩前を歩くようにして誘導します。
注意点:
- 許可なく触らない: 白い杖は視覚情報を得るための大切な道具です。許可なく触ったり、急に掴んだりしないようにしましょう。
- 急な方向転換は避ける: 誘導する際に、急に方向を変えると、相手が戸惑ってしまうことがあります。事前に声をかけてからゆっくりと方向を変えましょう。
- 抽象的な表現は避ける: 「あちら」「そちら」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇の方向へ」「△△の手前を右に」のように具体的な言葉で伝えましょう。
- 音で知らせる: 音の出る信号や近づいてくる車両の音などを伝えることも有効です。
一歩踏み出す勇気
サポートをためらう気持ちは理解できます。しかし、少しの勇気と相手への配慮があれば、私たちは誰でも、ほんの短い時間でも、車椅子の方や白い杖を持った方の助けになることができます。
大切なのは、まず声をかけること、そして相手の指示を仰ぐことです。もし断られたとしても、それは相手の状況や考えがあってのこと。決して気にする必要はありません。
私たちが一歩踏み出すことで、より多くの人が安心して暮らせる、温かい社会を築いていくことができるはずです。街中で困っている様子の車椅子の方や白い杖を持った方を見かけたら、ぜひ、この記事でご紹介したことを参考に、できる範囲で声をかけてみてください。あなたの小さな行動が、誰かの大きな助けになるかもしれません。