今回は、かつて日本全国で大きな動きとなった「平成の大合併」を振り返りながら、私たちが直面している人口減少や高齢化の現状を踏まえ、近未来に「令和の大合併」が起こりうるのか、そしてその中で注目される「スモールシティ構想」について、じっくりと解説していきたいと思います。
平成の大合併を振り返る
今から20年ほど前、日本列島では市町村の数が大きく変動する出来事がありました。それが「平成の大合併」です。1999年から2010年頃にかけて、全国で3,000以上あった市区町村が、およそ1,700まで減少したのですから、その規模の大きさがうかがえます。 なぜ、このような大合併が行われたのでしょうか?背景には、当時の日本社会が抱えていたいくつかの深刻な問題がありました。
一つ目は、地方の過疎化と人口減少の深刻化です。高度経済成長期以降、都市部への人口集中が進み、地方では人口が減少し、地域社会の維持が困難になりつつありました。
二つ目は、少子高齢化の急速な進行です。出生率の低下と平均寿命の延伸により、社会全体の高齢化が進み、地域社会における労働力不足や担い手不足が深刻化していました。
三つ目は、地方自治体の財政力低下です。人口減少や地域経済の低迷により税収が伸び悩む一方で、高齢化に伴う社会保障費は増大し、多くの自治体で財政運営が厳しさを増していました。
こうした状況に対し、「小規模な自治体だけでは、これらの課題に対応していくのは難しい」という危機感が広がり、自治体の規模を大きくすることで、行政サービスの効率化、財政基盤の強化、広域的なまちづくりなどを目指したのが、平成の大合併だったのです。
国は、合併を推進するために、合併特例法を制定し、合併協議を行う自治体に対して財政的な優遇措置を設けました。これにより、多くの自治体が合併へと動き出したのです。結果として、人口1万人未満の小さな自治体は大幅に減少し、より規模の大きな自治体が誕生しました。
合併の光と影
平成の大合併は、確かに市区町村の数を減らし、一部では財政基盤の強化や行政サービスの効率化に貢献しました。広域的な視点でのまちづくりが進んだ地域もあったでしょう。しかし、その一方で、いくつかの課題や悪影響も指摘されています。
まず、住民自治の希薄化です。自治体の規模が大きくなったことで、住民と行政との距離が遠くなり、住民の声が届きにくくなったと感じる人もいました。特に、合併前の小さな町村に住んでいた人々からは、合併後の自治体運営に自分たちの意見が反映されにくいという不満も聞かれました。
次に、地域コミュニティの分断です。これまで独立した自治体として存在してきた地域間の結びつきが薄れ、地域の一体感が失われたと感じる人もいます。歴史や文化、生活圏が異なる自治体同士が合併した場合、この傾向は顕著でした。
また、旧自治体間の対立も起こりました。合併後、行政サービスの配分や公共施設の整備などを巡って、旧自治体間で利害の対立が生じることもありました。
そして、財政運営の悪化です。合併時には財政的なメリットが期待されましたが、長期的に見ると、合併特例債の償還開始や地方交付税の減額などにより、財政運営が厳しくなっている自治体も存在します。
さらに、合併によって、これまで地域に根ざしたきめ細やかな行政サービスが低下したと感じる住民もいました。
過疎化と高齢化は今も進行中
平成の大合併から年月が経過しましたが、残念ながら、過疎化と少子高齢化の波は依然として日本社会に押し寄せています。特に地方では、人口減少に歯止めがかからず、高齢化率はさらに上昇しています。
これは、平成の大合併の目的の一つであった「持続可能な地域社会の形成」が、道半ばであることを示唆しています。合併によって自治体の規模は大きくなったものの、人口減少という根本的な問題の解決には至らなかったのです。
次の波は来るか?
このような現状を踏まえると、「近い将来、『令和の大合併』が再び起こるのではないか?」という疑問が湧き上がってくるのは自然な流れでしょう。
現時点では、「令和の大合併」という具体的な施策が政府や国会で公式に議論されているという情報はありません。しかし、過疎化や少子高齢化という喫緊の課題に対応するため、自治体の持続可能性を高めるための様々な検討は、行政・立法府の両方で行われています。
行政における検討: 総務省では、今後の地方自治のあり方に関する研究会などを通じて、自治体の規模の適正化や広域連携の強化といった視点が議論されています。また、地方自治体からも、より効率的な行政運営を目指した近隣自治体との連携や、将来的な合併の可能性について提言が出されることがあります。
立法府における議論: 国会においても、地方の疲弊や自治体の持続可能性に関する質疑が行われ、議員から自治体規模の適正化や合併の必要性が指摘されることがあります。
ただし、平成の大合併のようなトップダウンでの大規模な合併を再び行うというよりは、より柔軟なアプローチが検討されている可能性が高いと考えられます。
その一つが、広域連携の深化です。必ずしも物理的な合併という形にこだわらず、複数の自治体が連携して行政サービスを共同で提供したり、広域的な課題に共同で取り組むことで、スケールメリットを活かすことが考えられます。
また、デジタル技術の活用も重要な鍵となります。オンラインでの行政手続きの共通化や、AIを活用した業務効率化などを進めることで、必ずしも自治体の物理的な合併によらなくても、効率的な行政運営を実現できる可能性があります。
さらに、従来の自治体の枠組みにとらわれず、新たな自治体のあり方を模索する議論も出てきています。特定の機能に特化した自治体の設立や、複数の自治体による連合体のような新しい形態が検討されるかもしれません。
注目される新たな潮流~「スモールシティ構想」への期待~
このような状況の中で、近年注目を集めているのが「スモールシティ構想」です。これは、人口減少や高齢化が進む地域において、生活に必要な機能やサービスをコンパクトな拠点に集約させ、持続可能な地域社会を目指す考え方です。
スモールシティ構想では、医療、福祉、商業、行政、教育、文化などの生活に必要な機能を、公共交通機関や徒歩でアクセスしやすい場所に集約させます。そして、住宅もその周辺に誘導することで、人口密度を維持し、効率的なサービス提供と地域コミュニティの活性化を図ります。
この構想は、平成の大合併のように自治体の規模を大きくすることだけを目指すのではなく、地域に住む人々が質の高い生活を送るための機能的な集約を目指すという点で、大きな違いがあります。
スモールシティ構想は、それぞれの自治体が地域の特性や課題を踏まえ、主体的に取り組むべきものです。もちろん、その実現には、都市機能の集約拠点の選定、住民の居住誘導策、公共交通の再編など、地域内の利害調整や住民の理解と協力が不可欠であり、政治的なリーダーシップが重要となります。
しかし、この構想が成功すれば、過疎化が進む地域でも、住民が安心して暮らし続けられる、持続可能な社会を築くことができる可能性があります。平成の大合併の教訓を踏まえ、画一的な合併ではなく、地域の実情に合わせた、よりきめ細やかな地域再生の道が開かれるかもしれません。
まとめ
今回のブログでは、平成の大合併を振り返りながら、現在の人口減少と高齢化の現状、そして今後の自治体のあり方について考えてきました。
現時点では、「令和の大合併」が具体的に動き出す兆候は見られませんが、自治体の持続可能性を高めるための議論は続いています。その中で、「スモールシティ構想」は、平成の大合併とは異なる、より地域に根ざした解決策として大きな期待を集めています。
これからの地方自治は、画一的な合併ではなく、それぞれの地域の特性を活かしながら、コンパクトで機能的な都市拠点を形成し、広域的な連携を深めていくという方向に向かうのではないでしょうか。
私たち一人ひとりが、地域の未来について考え、積極的に議論に参加していくことが、持続可能な地域社会の実現には不可欠です。皆さんもこの社会的課題にご関心をお持ちであれば、ご自身がお住まいの市区町村議会の討議内容に少し注目されてはいかがでしょうか。