日本は世界に誇る「長寿国」として知られています。平均寿命の長さは世界トップクラスであって、これは素晴らしいことです。 しかし、ただ長く生きるだけでなく、私たちは今、「健康寿命」というもう一つの重要な目標を掲げています。
今回は、日本がなぜ長寿国なのか、そしてこれからの日本が目指すべき「健康長寿」の姿、さらに他の長寿国から学べるヒントを、皆さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。
日本の長寿を支える基盤
まず、日本が世界有数の長寿国となった背景には、いくつかの強固な基盤があります。
- 世界トップクラスの医療水準と国民皆保険制度: 日本には、誰もが質の高い医療を受けられる「国民皆保険制度」があります。これにより、経済的な心配をすることなく、病気の早期発見・早期治療が可能になっています。高度な医療技術も、私たちの健康を力強く支えています。
- 健康的な食文化: 魚介類、野菜、大豆製品を豊富に使う和食は、栄養バランスに優れ、生活習慣病の予防に貢献しています。出汁を効かせた薄味の料理も、塩分摂取を抑える上で重要です。
- 高い衛生意識と公衆衛生の徹底: 清潔な水や衛生的な環境、そして感染症予防のための高い衛生意識が、感染症の流行を防ぎ、私たちの健康を守っています。
- 健康意識の高さと予防医療への取り組み: 定期的な健康診断の受診や、運動習慣への関心の高さも、国民全体の健康水準を引き上げています。
これらの要因が複合的に作用し、日本は文字通り「長寿大国」となったのです。
長寿の、その先へ:「健康寿命」の延伸を目指す日本
私たちが今、平均寿命と並んで重視しているのが「健康寿命」です。
「健康寿命」とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。 つまり、介護を必要とせず、自分で身の回りのことを行い、活動的に過ごせる期間を指します。
現在の日本は、平均寿命が長い一方で、「不健康な期間」、つまり介護や医療を必要とする期間が男女ともに約10年ほど存在します。このギャップを縮めることが、これからの日本の大きな目標です。
なぜ「健康寿命」を延ばすことがそんなに大切なのでしょうか?
- 個人の生活の質の向上: 誰もが、生涯にわたって自分らしく、趣味や社会活動を楽しみたいと願っています。健康寿命が延びれば、そうした希望を長く持ち続けられます。
- 医療費・介護費の抑制: 不健康な期間が短くなれば、個人だけでなく、国全体の医療費や介護費の負担を軽減できます。これは、持続可能な社会保障制度を維持する上で不可欠です。
- 社会の活力維持: 高齢者が健康で社会に貢献し続けることは、少子高齢化が進む日本において、社会全体の活力を維持し、地域コミュニティを活性化させる上でも極めて重要です。
国と個人が連携して目指す「健康長寿」
では、この「健康寿命」と「平均寿命」の両方を延ばすために、国(行政)と私たち個人は、それぞれどのようなことに重点を置き、取り組むべきなのでしょうか?
【行政が重点を置くべき課題とすべきこと】
行政は、国民全体の健康を底上げするための「環境づくり」と「仕組みづくり」が主な役割です。
- 予防医療と公衆衛生の強化:
- 健康診断の受診率向上: 特定健診やがん検診など、各種検診の受診を促す啓発活動や、誰もが受けやすい環境整備を進めます。
- 生活習慣病の重症化予防: 糖尿病や高血圧などの患者さんに対する指導の強化や、かかりつけ医との連携促進を図ります。
- 高齢者のフレイル(虚弱)対策: 栄養改善、運動機会の提供、社会参加の促進など、地域全体で高齢者のフレイル予防に取り組みます。
- 健康的な生活習慣を支える社会環境の整備:
- 運動しやすい環境づくり: 公園やウォーキングコースの整備、地域スポーツ施設の充実など、体を動かす機会を増やします。
- 食生活改善の推進: 食育の推進や、健康的なメニューを提供する店舗への支援などを通じ、国民の食生活改善を後押しします。
- 禁煙・受動喫煙対策の徹底: 喫煙による健康リスクの啓発や、受動喫煙防止の取り組みをさらに強化します。
- 心の健康サポート: ストレスチェック制度の推進や、相談窓口の充実など、メンタルヘルス対策を強化します。
- 地域包括ケアシステムの推進:
- 医療、介護、住まい、生活支援が一体となって提供される「地域包括ケアシステム」の構築を加速させ、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できるよう支援します。
- 質の高い医療・介護人材の確保と育成:
- 医療や介護の現場で働く人々の処遇改善や、働きやすい環境づくりを進め、質の高い人材を確保・育成します。
【個人が重点を置くべき課題とすべきこと】
私たち一人ひとりが、自分の健康に「自分事」として向き合い、日々の生活習慣を改善することが何よりも大切です。
- 健康的なライフスタイルの実践:
- バランスの取れた食事: 野菜、魚、大豆製品を意識して摂り、塩分、糖分、脂肪の過剰摂取を控える。
- 適度な運動習慣: ウォーキングやジョギングなど、無理なく続けられる運動を日々の生活に取り入れる(例:毎日30分程度)。
- 十分な睡眠: 規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を確保する。
- ストレス管理: 趣味やリラックスできる時間を作り、自分なりのストレス解消法を見つける。
- 禁煙・節度ある飲酒: 健康リスクの高い喫煙は避ける。飲酒も適量を守る。
- 口腔ケア: 毎日の歯磨きはもちろん、定期的な歯科検診で虫歯や歯周病を予防する。
- 主体的な健康管理と予防意識の向上:
- 定期的な健康診断の受診: 自分の健康状態を把握し、病気の早期発見・早期治療につなげます。
- かかりつけ医を持つ: 信頼できるかかりつけ医を見つけ、継続的に健康を相談できる関係を築きます。
- 健康に関する正しい知識の習得: 誤った情報に惑わされず、信頼できる情報源から健康に関する知識を学び、自身の健康リテラシーを高めます。
- 社会とのつながりを維持する:
- 社会参加: ボランティア活動や地域活動、趣味のサークルなどに積極的に参加し、社会とのつながりを持ち続けます。
- 人との交流: 家族や友人、地域の人々との交流を大切にし、孤立を防ぐことで、精神的な健康も保ちます。
世界の長寿国から学ぶ、それぞれの成功要因
日本以外にも、長寿を実現している国々はたくさんあります。それぞれの国が持つ特徴的な成功要因を見ていくことで、私たちも新たなヒントを得られるかもしれません。以下に日本以外の長寿国について簡単に紹介いたします。
日本が世界有数の長寿国であることはある程度真実なのかもしれませんが、上には上がいるということも真実であり、謙虚に他国に学ぶ姿勢は決して忘れてはいけないと考えます。
シンガポール:政府主導の強力な健康政策と効率的な医療
- 徹底した健康誘導: 政府が国民の健康的な食生活を奨励するため、砂糖入り飲料への課税や、より健康的な食品への割引など、具体的な政策を打ち出しています。
- 「アクティブ・エイジング」の推進: 高齢者が社会で活動的に過ごせるよう、都市設計やプログラムを通じて社会参加を促しています。
- 厳格な社会規制: 健康に悪影響を及ぼす可能性のある要因(薬物など)に対する厳格な規制も特徴です。
韓国:高い健康意識と伝統的な食文化
- 女性の健康的なライフスタイル: 特に女性の喫煙・飲酒率が低く、生活習慣病のリスクを抑えています。
- 美容と健康への強い関心: 国民全体の健康や美容への意識が高く、積極的に健康管理に取り組んでいます。
- 発酵食品を多用する食文化: キムチなどの発酵食品を日常的に摂取することが、腸内環境や免疫力に良い影響を与えている可能性があります。
スイス:潤沢な資金に支えられた質の高い医療と安定した社会
- 質の高い医療アクセス: 高額な医療費を払ってでも、国民は質の高い医療サービスに迅速にアクセスできます。
- 高い生活水準と低い肥満率: 豊かな社会基盤と高い生活水準、そして低い肥満率が、国民の健康を支えています。
オーストラリア:手厚い公的医療制度と豊かな自然環境
- ユニバーサルヘルスケア(メディケア): 所得に応じた税金で運営される公的医療制度により、国民は原則無料で医療を受けられます。
- 高い生活の質: 経済的安定と豊かな自然環境が、ストレスの少ない生活と健康的なライフスタイルを促進しています。
ノルウェー:手厚い福祉国家システムと男女平等社会
- 公的資金による幅広い福祉サービス: 医療や教育など、幅広いサービスが公的資金で手厚く提供され、国民の医療費負担が少ないです。
- 高い女性の就労率と育児支援: 男女平等が進み、女性が社会で活躍できる環境や、育児支援が充実していることも、国民の健康や生活の質の向上に寄与しています。
イスラエル:効率的な保健行政と強い家族・社会のつながり
- 中央集権的な保健サービス: 国が責任を持って保健サービスや疾病予防対策を遂行し、効率的な医療提供を実現しています。
- 高い出生率と家族の絆: 出生率が高く、家族やコミュニティのつながりが強いことが、高齢者の精神的な健康や社会的な孤立を防ぐ上で大きな役割を果たしています。
さらなる健康長寿大国へ
これらの世界の事例から見えてくるのは、「質の高い医療へのアクセス」「健康的な生活習慣を支える環境」「強固な社会保障制度」、そして「社会的なつながり」が、長寿を実現するための共通の鍵だということです。
日本はすでに多くの点で世界をリードしていますが、これからは「平均寿命」だけでなく「健康寿命」にも焦点を当て、人生100年時代を誰もが自分らしく、活動的に過ごせる「真の健康長寿大国」を目指していく必要があるでしょう。