AirLand-Battleの日記

思い付きや素朴な疑問、常識の整理など、特段のテーマを決めずに書いております。

東京の住宅には太陽光パネルよりも二重サッシでは?

 環境への意識が高まる昨今、私たちの生活とエネルギー消費について考える機会が増えましたね。特に「家」は、エネルギーを使う大きな場所。東京都では、新築住宅の屋根に太陽光パネルの設置を義務付ける条例が施行され、大きな話題となりました。

 この条例、一見すると「脱炭素社会」への一歩にも見えるでしょう。再生可能エネルギーを増やし、地球温暖化対策を進める。素晴らしい目標です。しかし、本当にこれで日本の家屋のエネルギー問題が解決に向かうのでしょうか? 私たちの家が、未来に向けて本当に快適で、持続可能な場所になるのでしょうか?

 私は、この東京都の政策には、少々疑問符がつくと思っています。今回は、太陽光パネルの義務化の背景とその課題、そして私たちが本当に目を向けるべき「もう一つの省エネ」について、提案したいと思います。

 

太陽光パネル義務化の背景

 東京都が新築住宅への太陽光パネル設置を義務付けた背景には、切迫した温室効果ガス削減目標があります。2030年までに都内の排出量を2000年比で50%削減する「カーボンハーフ」という意欲的な目標達成には、建物のエネルギー対策が不可欠。都内のCO2排出の約7割が建物に起因するため、新築時に太陽光パネルを設置することで、再生可能エネルギー導入を一気に加速させたい、という強い意図が感じられます。災害時の電力供給源確保や、国際的な脱炭素への貢献という側面もありますね。

 もちろん、太陽光発電はクリーンなエネルギーを生み出す素晴らしい技術です。しかし、ブログ読者の皆さんには、そのメリットだけでなく、いくつかの見過ごされがちな課題にも目を向けてほしいのです。

 まず、一つ目の懸念は「耐久性と安全性」です。近年、地球温暖化の影響で台風が大型化し、風雨が激しさを増しています。屋根に設置された太陽光パネルが、記録的な暴風で飛ばされてしまう可能性はゼロではありません。パネル自体の耐風性能はJIS規格などで定められていますが、万が一の事態は常に頭の片隅に置いておくべきでしょう。また、パネルは精密機器ですから、経年劣化による発電効率の低下や故障は避けられません。パワーコンディショナーなどの交換費用も、長期的に見れば決して無視できないランニングコストとなります。

 二つ目は、「初期費用の増加」です。条例によってパネル設置が義務化されれば、当然その費用は住宅の建築コストに上乗せされます。都は補助金で支援すると言いますが、住宅購入者にとっては少なからず負担増となる可能性があり、住宅価格を押し上げる一因となることも懸念されます。

 確かに太陽光パネルは「発電」という目に見える形でエネルギーを生み出し、環境に貢献しているという実感を得やすいかもしれません。しかし、私が本当に皆さんに考えてほしいのは、「エネルギーを創る」ことよりも「エネルギーを使わない」ことの重要性です。

 

日本家屋の”弱点”

 ここで、一度日本の住宅の「弱点」について目を向けてみましょう。皆さんのご自宅は、冬は窓際がひんやり、夏はエアコンをつけてもなかなか涼しくならない…なんてことはありませんか? その原因の一つに、窓の断熱性能の低さがあります。

 特に、全国的に普及している「アルミサッシ+単板ガラス」の組み合わせは、何十年も前から日本の住宅の冷暖房効率を著しく悪くしている元凶とも言われています。アルミニウムは非常に熱を伝えやすい素材です。そのため、冬は暖房で暖まった室内の熱が窓からダダ漏れになり、夏は外の熱が窓からガンガン侵入してくるのです。なんと、住宅の熱の出入りの約半分が「窓」からと言われています。

 この窓の問題に加え、壁や床、天井の断熱材の不足や施工不良も、日本の多くの住宅が抱える課題です。隙間だらけの「スカスカの家」では、せっかく暖めたり冷やしたりした空気がすぐに外に逃げてしまい、いくら高性能なエアコンを使っても、無駄なエネルギー消費ばかりが増えてしまいます。

 まるで、穴だらけのバケツにいくら水を注いでも、なかなか水がたまらないのと同じです。まずは、その「穴」を塞ぐことが最優先であるべきではないでしょうか?

 

「省エネ家づくり」の計り知れないメリット

 私が皆さんに強くお勧めしたいのは、この「穴を塞ぐ」家づくり、つまり「住宅の断熱・気密性能の徹底的な向上」です。特に、二重サッシや複層ガラスの導入、そして壁・床・天井への適切な断熱材の充填です。

 「いやいや、気密性が高まると結露がひどくなって、家が傷むんじゃないの?」 そんな心配の声も聞こえてきそうです。確かに、かつて日本の住宅業界には、この「気密化=結露」という誤解がありました。隙間だらけの昔の家は、確かに結露しにくかったかもしれません。しかしそれは、冷暖房が効きにくく、冬は家の中でも吐く息が白くなるような、寒くて不健康な環境と引き換えでした。

 現代の建築技術は、この課題を完全に克服しています。北海道のような極寒の地で、二重サッシや高断熱・高気密住宅が当たり前のように普及しているのは、それを証明しています。彼らは早くから、厳しい冬を快適に過ごすために、断熱と気密の技術を磨き、計画的な換気システム(特に熱交換型換気システム)を導入することで、結露を防ぎ、室内を快適に保つノウハウを確立してきました。

 適切な断熱と換気が確保された「高気密・高断熱住宅」は、太陽光パネルによる発電以上に、計り知れないメリットをもたらします。

 

高断熱・高気密住宅の圧倒的な利点

  1. 根本的なエネルギー消費の削減:

    • 何よりもまず、冷暖房の使用量そのものを大幅に減らせます。 室内の熱が逃げにくく、外気の影響を受けにくいので、エアコンの設定温度を控えめにしても快適に過ごせます。電気代の削減効果は、季節や天候に左右されず、安定して得られます。これは「創エネ」よりも先に「省エネ」という、最も効率的なアプローチです。

  2. 圧倒的な快適性&健康増進:

    • 冬、窓際や廊下が冷え込む不快感から解放されます。家中のどこでも温度差が少なく、ヒートショックのリスクを大幅に低減できます。 特に高齢者や小さなお子さんがいるご家庭にとっては、命を守ることに直結する、かけがえのないメリットです。

    • 結露やカビの発生を抑え、アレルギーや喘息のリスクを減らすなど、健康的な室内環境を実現できます。

  3. メンテナンスフリーで長期的なコストパフォーマンス:

    • 太陽光パネルのような設備と異なり、二重サッシや断熱材は、一度設置すれば建物の構造の一部として機能し、基本的にメンテナンス不要です。故障の心配もほとんどなく、半永久的に効果が持続します。長期的に見れば、修理や交換費用がかかる太陽光パネルよりも、はるかに経済的です。

  4. 災害へのレジリエンス向上:

    • 地震や台風で停電した場合、高断熱・高気密の家は、魔法瓶のように室内の温度を保ちやすくなります。 夏の熱中症や冬の低体温症のリスクを大幅に軽減し、救援が来るまでの間、より安全に過ごすことができます。これは、災害が頻発する現代において、非常に重要な「命を守る機能」です。

  5. 普遍的な資産価値の向上:

    • 高性能な断熱・気密性能を持つ住宅は、その快適性、省エネ性、健康性、そして災害への強さから、将来にわたって高い資産価値を保ちやすいです。環境性能が高い住宅は、今後ますます評価されるでしょう。

 

東京の太陽光パネル政策は流行に乗っただけ?

 東京都が太陽光パネルの設置義務化に踏み切った熱意は理解できます。しかし、それは「手っ取り早く」数字を達成するための手段であり、住宅の本質的なエネルギー問題や居住者の快適性、健康、安全という視点が、やや置き去りにされているように感じられてなりません。

 本当に大切なのは、家が消費するエネルギー量を最大限に減らすこと。そのためには、まず「窓」や「断熱材」といった住宅の基本性能を徹底的に高めることこそが、行政が最も力を入れて推進すべきことだと考えます。新築だけでなく、既存住宅への改修を強力に後押しする補助金や、より厳しい省エネ基準の義務化こそ、私たち一人ひとりの暮らしを豊かにし、日本の脱炭素社会を本当に実現するための道筋ではないでしょうか。