AirLand-Battleの日記

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アメリカのプロ・スポーツチームが名を変える理由

以前に「アメリカのプロ・スポーツチ―ムの名付け方に感心」というタイトルで投稿しましたが、今回はその続編のようなものです。

プロスポーツチームの名称は、単なる記号以上の意味を持ちます。それはチームの歴史、本拠地の文化、そして時代を映し出すニックネームのようなものです。しかし他方で、チーム名が変更されることもあります。それはなぜでしょうか? 本記事では、アメリカのプロスポーツ(NFL、NBA、MLB、NHL)を例に、チーム名が変わる主な理由とその背景にある事情を実例とともに解説しようと思います。

 

理由その1. 政治的・社会的な配慮

近年、最も注目されるチーム名変更の理由が、政治的正確さ(Political Correctness)への配慮です。過去には問題視されなかった名称が、現代の価値観に照らし合わせると不適切と判断されるケースが増えています。

実例:ワシントン・レッドスキンズ(Washington Redskins)→ ワシントン・コマンダーズ(Washington Commanders)

この事例は、チーム名変更を語る上で避けて通れません。「レッドスキン」という言葉は、長年にわたりネイティブ・アメリカンに対する差別的な呼称として批判されてきました。特に2010年代に入り、公民権運動の高まりとともに、チーム名変更を求める声は無視できないものとなりました。2020年、ついにチームは名称を廃止し、2022年に「コマンダーズ」として再出発しました。この変更は、チームが社会的な責任を果たす姿勢を示した象徴的な出来事と言えるでしょう。

実例:クリーブランド・インディアンス(Cleveland Indians)→ クリーブランド・ガーディアンズ(Cleveland Guardians)

ワシントンの事例と同様、MLBのクリーブランド・インディアンスも「インディアン」という名称がネイティブ・アメリカンのステレオタイプを助長するという批判にさらされていました。さらに、チームのロゴマークである「ワフー酋長」も人種差別的だと問題視されていました。チームは議論を重ねた結果、2021年に「ガーディアンズ」へと改名しました。この名称は、クリーブランドのランドマークであるホープメモリアル橋の彫像「ガーディアンズ・オブ・トラフィック」に由来しており、地域の誇りを反映した新しいアイデンティティを確立しました。

実例:ワシントン・ブレッツ(Washington Bullets)→ ワシントン・ウィザーズ(Washington Wizards)

この事例は、人種問題とは異なる社会問題への配慮から行われました。「ブレッツ」(弾丸)というチーム名は、本拠地であるワシントンD.C.の深刻な銃器犯罪問題と結びつけられ、不適切であると指摘されました。銃による暴力を根絶したいというチームオーナーの強い意志もあり、1997年に「ウィザーズ」へと改名されました。これは、スポーツチームが社会的なメッセージを発信する役割を担うようになった好例です。

 

理由その2. 本拠地移転

チーム名変更の最も伝統的な理由の一つが、本拠地の移転です。新しい地域でファンに愛される存在となるためには、その土地の歴史や文化を反映した名称に変更することが不可欠となる場合があります。

実例:ヒューストン・オイラーズ(Houston Oilers)→ テネシー・タイタンズ(Tennessee Titans)

「オイラーズ」(油田労働者)という名称は、ヒューストンが石油産業の中心地であったことに由来します。しかし、チームが1997年にテネシー州ナッシュビルへ移転した後、この名称は地理的な意味を失いました。そのため、テネシー州の歴史や文化に根ざした新しいアイデンティティを確立するため、1999年に「タイタンズ」へと変更されました。

実例:モントリオール・エクスポズ(Montreal Expos)→ ワシントン・ナショナルズ(Washington Nationals)

「エクスポズ」という名称は、チームの創設がモントリオール万国博覧会(Expo 67)にちなんだものでした。しかし、チームが経営難から2005年にアメリカの首都ワシントンD.C.へ移転すると、この名称は意味をなさなくなりました。新しい本拠地のアイデンティティを反映させるため、そして過去にワシントンを本拠地としていたチームの名称に敬意を表し、「ナショナルズ」へと改名されました。

実例:シアトル・スーパーソニックス(Seattle SuperSonics)→ オクラホマシティ・サンダー(Oklahoma City Thunder)

「スーパーソニックス」という名称は、シアトルにあった航空機メーカーのボーイング社が製造した超音速旅客機に由来します。しかし、チームが2008年にオクラホマシティへ移転すると、この名称は不適切と判断されました。新しい本拠地のアイデンティティを反映させるため、そしてオクラホマ州で頻繁に発生する雷雨にちなんで「サンダー」へと変更されました。

 

理由その3. ブランドイメージの刷新

長年の低迷やネガティブなイメージを払拭するため、チーム名変更は大胆なマーケティング戦略として用いられることがあります。

実例:タンパベイ・デビル・レイズ(Tampa Bay Devil Rays)→ タンパベイ・レイズ(Tampa Bay Rays)

「デビル・レイズ」は、チーム創設以来、長い間成績不振にあえいでいました。「デビル」(悪魔)という言葉がネガティブなイメージを与えているという見方もありました。2008年、チームは名称から「デビル」を外し、単に「レイズ」とすることで、ブランドイメージを一新しました。この変更はチームの成績向上にも繋がり、同年にワールドシリーズ進出を果たし、チームの再生を象徴する出来事となりました。

 

変わらないことの意義:歴史の継承

一方で、本拠地を移転しても、政治的・社会情勢が変わっても、チーム名を頑なに守り続ける事例も少なくありません。これは、チームの歴史、ブランド、そしてファンとの絆を何よりも大切にするという判断の表れでしょう。

実例:ユタ・ジャズ(Utah Jazz)

ニューオーリンズはジャズ発祥の地として知られており、チーム名はこれにちなんで名付けられました。しかし、1979年にユタ州ソルトレイクシティに移転した後も、「ジャズ」の名称はそのまま引き継がれました。ジャズとは縁の薄いユタ州でもこの名称は受け入れられ、今でもチームのユニークなアイデンティティとして定着しています。

実例:ロサンゼルス・レイカーズ(Los Angeles Lakers)

「レイカーズ」という名称は、ミネソタ州が「一万の湖の国」として知られていることに由来します。しかし、1960年にロサンゼルスに移転した後も、この名称は変更されませんでした。ロサンゼルスに湖は少ないですが、レイカーズは移転前からリーグを代表する強豪チームであり、そのブランド力と歴史を維持することが優先されました。

実例:メンフィス・グリズリーズ(Memphis Grizzlies)

「グリズリーズ」という名称は、カナダのヴァンクーヴァーに生息するヒグマの一種に由来するものでした。2001年にテネシー州メンフィスへ移転した際も、この名称は維持されました。これは、チームのブランドがすでに一定の知名度を獲得しており、あえて変更する必要がないと判断されたためです。

 

まとめ

スポーツチームの名称変更は、その時代の価値観や社会情勢、そしてチームの経営戦略が複雑に絡み合った結果です。政治的な配慮、本拠地移転、ブランド刷新、そして伝統の継承。これらの要因は、チームが未来に向けてどのような道を歩むかを示す重要なメッセージとなります。チーム名が変わるのは、単なる言葉の変更ではなく、そのチームが背負う歴史と未来への希望が詰まった判断の結果なのです。

 

ところで、NBAのマイアミ・ヒート(Miami Heat)のチーム名の由来は、南国らしく「白熱」とか「熱波」という意味だそうですが、近年の地球温暖化が今後も進むとなると、チーム名から連想されるイメージが悪化しそうですね。これも将来は変えることになるのかも....