AirLand-Battleの日記

思い付きや素朴な疑問、常識の整理など、特段のテーマを決めずに書いております。

丙午だけではない「周期波動」

2026年は丙午の迷信

 2026年は60年に一度の「丙午(ひのえうま)」です。十干十二支の組み合わせで、古くからの迷信によれば「この年に生まれた女性は気性が激しく、夫を食い殺す」といった、現代から見れば荒唐無稽な言説が語り継がれてきました。実際に、前回の丙午であった1966年には、出生率が前後に比べて極端に低下するという社会現象が起きました。

 しかし、科学的合理性が重んじられる現代において、こうした干支に基づく性格診断や運勢論は、現代では統計的な裏付けを欠いた単なる俗信に過ぎないと思われるでしょう。いまどき個人の資質を生まれ年で決めつけるような偏見をきっぱりと否定すべきです。

 さて他方で、東洋思想に基づく十干十二支の他に経済学や社会学における「周期波動(サイクル)」という視点が存在します。歴史を振り返れば、経済や社会は単なる直線的な進歩ではなく、一定のリズムを持って拡大と収縮を繰り返したように見えます。以下に、迷信ではなく理性的・学術的なフレームワークを用いて、2026年という年が持つ「周期波動」の上での位置づけや解釈を探ってみたいと思います。

 

第1章:コンドラチェフ波動

 経済学説での最も大きな周期波動、それが「コンドラチェフ波動」です。1920年代にロシアの経済学者ニコライ・コンドラチェフ(1892~1938)が提唱したこの説は、約50年から60年という超長期の周期で経済が循環するというものです。

 この波動の原動力は、社会を根本から作り変える「破壊的な技術革新」にあります。過去、第1波は蒸気機関(18世紀末)、第2波は鉄道と鉄鋼(19世紀半ば)、第3波は電気と化学(20世紀初頭)、第4波は自動車と石油(20世紀半ば)、そして第5波は情報・通信技術(IT)(1980年代〜)が主導してきました。

 2026年の位置づけを解釈すると、私たちは今、第5波(IT革命)の「冬(衰退・調整期)」を終え、いよいよ第6波の「春(回復・上昇期)」に入った直後であると見ることができます。第6波の主役は、人工知能(AI)、再生可能エネルギー、バイオテクノロジーです。2026年は、これら革新技術が単なる研究対象から、社会実装へと本格的に移行する「離陸の年」となるかもしれません。

 

第1章:クズネッツの波

 次に長い周期のスパンを持つのが、米国の経済学者サイモン・クズネッツ(1901~1985)が1930年に提唱した「クズネッツの波」です。これは約20年の周期で繰り返される建設・住宅需要の循環を指します。

 この波は、人口動態の変化や建物の建て替え、都市開発などの物理的な投資が要因となります。2026年をこの視点で見ると、前回の大きな建設ブーム(2000年代中盤の不動産バブルやその後の調整)から約20年が経過しています。

 現在、日本を含む先進国では、1960年代〜70年代に作られた社会インフラの老朽化がピークに達しています。2026年前後は、単なるメンテナンスの枠を超え、デジタル技術を融合させた「スマートシティ」へのインフラ全面刷新が始まる時期です。第1章のコンドラチェフ波動(AI・エネルギー)が、このクズネッツの波(物理的建設)を後押しする形で、2026年の景気を下支えする可能性が高いと考えられます。

 

第3章:ジュグラーの波

 より身近な景気循環として知られるのが、フランスの経済学者クレマン・ジュグラー(1819~1905)が発見した「ジュグラーの波」です。これは約10年前後の周期で、企業の設備投資の増減によって引き起こされます。通常、企業は新しい設備を導入すると、数年から10年程度使い続け、その寿命が来ると一斉に更新します。この「更新のタイミング」が重なることで景気の波が生まれます。

 2026年における解釈としては、コロナ禍(2020年〜)で停滞していた設備投資が、ポスト・コロナの新たなサプライチェーン構築や自動化投資へと舵を切ってから、ちょうど数年が経過した安定期にあたります。さらに、2026年は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」から「AIトランスフォーメーション」への設備投資の移行期でもあります。従来の機械設備の更新ではなく、知的な基盤の更新という、ジュグラーの波の「質の変化」が問われる年になるでしょう。

 

第4章:キチンの波

 最も短い周期スパンが、米国の経済学者ジョセフ・キチン(1861~1932)が1923年に提唱した「キチンの波」です。これは約40ヶ月(約3〜4年)の周期で、主に企業の在庫投資の変動によって生まれます。企業が「モノが売れる」と見込んで在庫を積み増すと景気が上向き、余剰在庫が増えて生産調整に入ると景気が下向く、という短期的な循環です。

 2026年は、2020年代前半の不安定な物流網(パンデミックや地政学リスク)による過剰在庫の整理が一段落する時期と重なります。短期的には、在庫サイクルが底を打って回復に向かうのか、あるいは新たな供給ショックに見舞われるのかを見極める「踊り場」のような位置づけになります。2026年の景気を短期的に予測する上では、このキチンの波による微細な調整が、私たちの生活実感に最も強く影響するはずです。

 

第5章:フォース・ターニング説

 経済学の枠組みの他に、社会や世代の心理に焦点を当てた周期波動の仮説が、ウィリアム・ストラウス(1947~2007)とニール・ハウ(1951~現)が提唱した「フォース・ターニング(第4の節目)説」です。これは約80年(一世代の寿命)を一つの「サエクル(Saeculum)」とし、それを約20年ごとの4つの段階に分ける歴史理論です。

  1. 第一段階:高揚(High)

  2. 第二段階:覚醒(Awakening)

  3. 第三段階:解体(Unraveling)

  4. 第四段階:危機(Crisis)

 現在は「第四段階(危機)」の真っ只中にいるとされます。この段階は通常、既存の秩序が崩壊し、新たな秩序が生まれる激動の時代です。前回の「危機」は1929年の世界恐慌から第二次世界大戦の終結(1945年)まででした。

 2026年は、この80年周期の最終盤にあたります。2008年のリーマンショック以降始まったこの「危機の季節」が、いよいよクライマックスを迎え、次の新しい「高揚(High)」へと向かうための産みの苦しみを経験する年です。国際政治における緊張や、社会制度の再編が加速する時期として、非常に重い意味を持つ年となります。

 

第6章:シンクロニシティ

 ここまで、数年から数十年、さらには80年という異なる学説による周期波動を見てきました。2026年という年を総括すると、これらの波が「同時に底を打ち、反転しようとしている」、あるいは「新たなフェーズへ移行しようとしている」という稀有なシンクロニシティ(同時性)が見えてきます。

  • コンドラチェフの波は「第6波」という100年に一度の技術革命を。

  • クズネッツの波は、物理的な社会インフラの総入れ替えを。

  • フォース・ターニング説は、80年ぶりの社会秩序の再構築を。

 これらが2026年という一点において交差しています。丙午という古臭い迷信に囚われ、未来を悲観したり、誰かを差別したりしている暇はありません。私たちが直面しているのは、数十年、あるいは百年に一度の「システムの刷新」ではないでしょうか。

 2026年は、古い在庫(キチン)を整理し、設備(ジュグラー)をAI化し、インフラ(クズネッツ)を刷新し、技術(コンドラチェフ)の果実を手にし、そして新しい社会秩序(フォース・ターニング)を築き上げる、極めて能動的な転換点と解釈して、世評を読んで判断し行動できるかもしれません。