AirLand-Battleの日記

思い付きや素朴な疑問、常識の整理など、特段のテーマを決めずに書いております。

海水淡水化技術のは夢だけでは無いようです

 私たちの住む地球は「水の惑星」と呼ばれますが、その水の約97%は海水であり、そのままでは飲み水にも農業にも使えません。世界的な人口増加や気候変動による干ばつが深刻化する中、海水を真水に変える「海水淡水化技術」は、もはや一部の地域だけの話ではなく、人類の生存を支える「現代の錬金術」となりつつあります。

 ところで、太陽光発電は20年ほど前には、夢のテクノロジーだったように言われていましたが、実用化されて広まっている現在では、自然破壊や実際の発電能力、廃棄問題などの弊害が明らかになってきました。海水淡水化技術もどうやら詳しく見てみると、さまざまな課題を孕んでいることが分るはずです。

 今回は、この海水淡水化の仕組みから、運用されている場所や地域、そして今まさに起きている「排水を宝に変える」技術革新まで、その全貌を解説してみたいと思います。

 

1. 海水を真水に変える二つの方向性

 海から塩分を取り除く方法は、大きく分けて二つのアプローチがあります。

 一つ目は「蒸留法」です。これは理科の実験でおなじみの、水を沸騰させて蒸気を取り出し、それを冷やして純粋な水に戻す方法です。古くからある確実な技術で、特に中東などの産油国では、火力発電所の隣にプラントを建て、発電時に出る余った熱(廃熱)を利用して大量の水を沸騰させています。

 二つ目は、現在の主流である「逆浸透法(Riverse Osmosis法)」です。これは「逆浸透膜」という、水分子だけを通して塩分や不純物を通さない、目に見えないほど細かな穴が開いた特殊なフィルターを使います。この膜に強い圧力をかけて海水を押し付けることで、真水だけを濾し取ります。蒸留法に比べて沸騰させる必要がないためエネルギー消費が少なく、現在、世界の淡水化プラントの約7割以上がこの方式を採用しています。 実は、この「逆浸透膜」の分野では日本企業が世界シェアの過半数を占めています。私たち日本の技術が、世界中の水問題の一部を陰ながら支えているのです。

 

2. 淡水化技術を求めている国と地域、そしてその用途

 海水淡水化が必要とされるのは、単に「砂漠がある国」だけではありません。

 まず筆頭に挙がるのは、やはりサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった中東諸国です。これらの国々では生活用水の大部分を淡水化に頼っており、国家の生命線となっています。また、地中海沿岸のイスラエルやスペイン、慢性的な水不足に悩むオーストラリアやアメリカのカリフォルニア州でも大規模な運用が行われています。

 意外かもしれませんが、日本国内でもこの技術は身近にあります。たとえば、大きな川がない沖縄の離島や、東京都の小笠原諸島などでは、安定した生活を支えるために欠かせない施設です。また、福岡市には日本最大級の施設があり、都市部の深刻な渇水に対する強力な「備え」として機能しています。

 さらに、私たちの目に見えないところでも活躍しています。大海原を航行する大型客船や、災害時に派遣される自衛隊の給水車の中にも、小型の淡水化装置が搭載されており、どんな状況でも飲み水を確保できるようになっているのです。

 

3. 直面する壁「濃縮塩水」

 夢のような技術に見える海水淡水化ですが、解決すべき大きな問題がありました。それが、真水を取り出した後に残る「濃縮塩水(Brine=ブリイン)」の扱いです。

 真水を取り出すと、完全に水分を抜くのはエネルギー使用量が大きくなるために、元の海水よりも塩分濃度が2倍ほど高い、ドロドロに濃い塩水が残るようになっています。もしこれを何も考えずに海へ戻せば、比重の重い塩水は海底に沈み込み、サンゴ礁を死滅させたり、魚や貝が生きていけない低酸素状態を作り出したりと、生態系に深刻なダメージを与えてしまいます。

 これまでは、この濃い塩水を大量の海水で薄めてから、潮流の速い沖合で拡散させるといった「希釈放出」が主流でした。しかし、淡水化の規模が巨大化するにつれ、単に薄めて捨てるだけでは環境への負荷が無視できなくなってきています。

 

4. 濃縮塩水を「資源」に

 ここで今、世界の関係者から期待されている対応策のひとつが「ブリイン・マイニング(塩水鉱業)」という新発想です。環境を壊す「厄介な排水」を、価値ある「レアメタルの宝庫」として再定義する動きです。

 もともと海水にはナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムの主要4金属に加え、リチウム、ウラン、金、バナジウムなど計77種類以上の比較的に稀少な元素も溶け込んでいます。地球上の海水に含まれているので資源として膨大ですが、濃度が極めて希薄なため、経済的、現実的な回収はこれまで考えられていませんでした。

 特に注目されているのが、電気自動車のバッテリーに欠かせない「リチウム」の回収です。これまでの技術では、海水中のごくわずかなリチウムを効率よく取り出すのは困難でしたが、最新の「直接リチウム抽出」という技術がその常識を変えようとしています。

 リチウムだけを選択的に吸着する特殊な素材や、特定のイオンだけを通す最新のフィルターが登場したことで、排水の中からバッテリーグレードの純度でリチウムを取り出すことが可能になりつつあります。他にも、建材になる石膏や、肥料になるカリウム、工業用のマグネシウムなども回収の対象です。

 

5. 未来都市NEOM

 この「資源回収型」の淡水化を国家レベルで進めているのが、サウジアラビアです。彼らが進める未来都市「NEOM(ネオム)」では、再生可能エネルギーだけで稼働し、なおかつ「海に一滴も排水を出さない(ゼロ液体排出)」という驚異的なプラントの建設が進んでいます。

 ここでは、取り出した真水は飲料水になり、残った塩水からはリチウムや塩、様々な化学薬品を精製して産業に役立てます。つまり、海水淡水化施設が「水の工場」であると同時に、地下資源に頼らない「鉱山」としても機能するのです。

 このモデルが成功すれば、排水による環境破壊という負の側面が消えるだけでなく、資源確保と水確保を同時に達成できる、持続可能な社会の象徴となるでしょう。

 

 海水淡水化は、今や「水を得るための苦肉の策」から、科学技術の粋を集めた「資源循環」という副産物まで産むようになってきました。

 私たちが何気なく飲んでいる水や、手にしている電子機器のバッテリー。そのルーツを辿ると、いつの日か「すべては海から生まれている」と言える日が来るかもしれません。日本の優れた膜技術と、世界の果敢な挑戦が合わさることで、水と資源の不安がない未来も、夢物語ではないのかもしれません。