先日、ミスタードーナツ(以下、ミスド)でドーナツを買って持ち帰り、自宅で食べていた時のことです。ふと口元を拭こうとしたとき、ミスドの「紙ナプキン」の手触りが、マクドナルドなどのハンバーガーチェーンとは明らかに違っていることに気付きました。以前から「なんとなく違う」とは思っていましたが、たまたまハンバーガーチェーンの紙ナプキンも置いてあったため、直接確認できたのです。
何気なく1枚、2枚と引き抜いているあの四角い紙には、企業が計算した「おもてなし」が隠されているようです。そしてこの違いは、紙ナプキンだけではありません。トングやトレー、包装紙、果ては飲み物のコップに至るまで、利用者が店舗で触れるあらゆるツールにおいて、ドーナツチェーンとハンバーガーチェーンの間には明確な「相違点」が存在します。
今回は、この「触覚」から分かる2大フードチェーンの思想の違いについて、具体的に比較紹介していきたいと思います。
1. 紙ナプキン
ミスドの紙ナプキンを指先でなぞってみると、少しツルツル、あるいはサラサラとした、薄手でしなやかな質感が伝わってきます。一方で、マクドナルドなどのナプキンは、カサカサ、ガサガサとしており、少し硬めでドライな印象を受けます。 この質感の差は、原料と「表面のシワ加工(クレープ加工)」の設計によるものです。
ミスドが重視しているのは、「柔らかさと手肌の保護」です。ドーナツの表面には、溶けたチョコレートや、砂糖を固めたグレーズ(油分と糖分の結晶)が付着しています。これらを拭き取る際、あまりに硬くガサガサした紙を使うと、砂糖の結晶が紙に絡みついて破れてしまったり、皮膚を強く擦って傷つけたりしてしまいます。また、ナプキン自体が油を吸いすぎて、持っている指にベタベタした感触が透けてくるのも防がねばなりません。そのため、繊維の細かいパルプを使い、表面の凸凹を非常に繊細に仕上げることで、滑らかな「優しい手触り」を実現しているのです。
対して、ハンバーガーチェーンが求めているのは、「圧倒的な吸水スピードと容量」です。こちらでは環境配慮やコスト削減の観点から、漂白工程を省いた茶色い「未晒(みざら)しパルプ」も頻繁に使われます。この繊維は太くて硬いため、独特のザラザラ感が生まれます。 さらに、あえて表面に深いシワを大量に刻み込むことで、紙の表面積を通常の平らな紙に比べて約1.5倍から2倍近くにまで広げています。これにより、ハンバーガーから溢れ出る大量の肉汁やソース、ポテトの油分を、まるでスポンジのように「一瞬で、大量に吸い上げる」という、極めて実用的な役割を果たさせているのです。
口元を「優しく拭う」ためのミスドと、水分や油分を「ガッツリ吸い取る」ためのバーガー店。紙ナプキン1枚にも、これだけの機能性の相違があります。
2. トングとトレー
続いて、購入時に必ず触れる「トング」と「トレー」に目を向けてみましょう。ここにも、商品の物理的な性質が考慮されています。
ミスドを訪れた際、私たちは自分でトングを持ち、プラスチック製のトレーにドーナツを乗せていきます。このとき使うトングは、非常に軽量な金属やプラスチックでできており、バネの反発力も強すぎないように調整されています。これは、トングを握る指先の力がそのまま伝わりすぎると、オールドファッションのような密度の高いドーナツはともかく、フレンチクルーラーやポン・デ・リングといった柔らかい生地を潰してしまうからです。さらに、掴んだドーナツが滑り落ちないよう、先端の噛み合わせには繊細な溝が彫られています。
そしてトレーの表面は、ツルツルとしたプラスチック、あるいは微細な滑り止め加工が施されています。基本的には、むき出しのドーナツをそのまま、あるいは薄い敷き紙を1枚挟むだけで乗せるため、トレーそのものの清潔感と、商品が滑らない安定感が最優先されているのです。
一方、ハンバーガーチェーンでは、利用者がトングに触れる機会はほぼありません。調理から袋詰めまで、すべてスタッフが厨房でコントロールするからです。 利用者が触れるのは「トレー」のみですが、その質感はミスドと対照的です。表面はザラザラとしたマットなプラスチックで、その上には必ずといっていいほど、メニューやキャンペーンが印刷された「紙のトレーマット」が敷かれています。
そもそもあの紙は何のために敷かれているのでしょうか。その理由は、ハンバーガーやフライドポテトが放つ「熱」にあります。出来立ての温かいバーガーをトレーに直接置くと、底面が結露して水滴が溜まり、バンズがふやけてしまいます。また、ポテトの油がプラスチックに直接付着すると、トレー全体がギトギトになってしまいます。あの1枚のトレーマットは、熱を逃がし、結露による水分や油分をその場で受け止めるための「防波堤」として機能しているのです。
3. 包装紙
ミスドのドーナツを思い浮かべてください。多くの場合、片側が開いたポケット状の小さな紙袋に入っていたり、長方形の半透明なワックスペーパーが巻き付けられていたりします。この紙は、触るとサラッとしていて適度な硬さがあります。 ここでの狙いは、「食べやすさ」と「視覚的な美しさ」の両立です。ドーナツの外見(トッピングや生地の形)は、それ自体が商品の大きな魅力です。そのため、すべてを覆い隠すのではなく、商品の顔が見えるように、かつ持ったときに指が油で汚れないような絶妙なサイズと硬さの紙が選ばれているのです。
しかし、ハンバーガーチェーンでは事情が異なります。彼らが使用するのは、四方を完全に折り込む「ラップ」タイプの包装紙や、L字に大きく開いた「バーガー箱」です。 この紙に触れてみると、ミスドの紙に比べてしっとりと柔らかく、くしゃくしゃと手に馴染む感覚があるはずです。これは、紙の裏面に、目に見えないほど薄いポリエチレンなどのラミネート加工や、特殊な耐水・耐油処理が施されているためです。 ハンバーガーは、ソース、マヨネーズ、肉汁といった「液体」の塊です。もしミスドのような硬く隙間のある紙で包めば、たちまち液体が漏れ出し、服を汚してしまうでしょう。極限まで気密性を高め、水分を外に逃がさないために、あのしなやかで頑丈な包装紙が必要不可欠なのです。
4. コップ
最後に、店内でドリンクを飲む際の「容器」の違いについて触れておきます。ここの触感こそが、それぞれの店舗が利用者に「どのような時間を過ごしてほしいか」について明確な思想の違いになっています。
ミスドで店内の飲食(イートイン)を選択し、ホットコーヒーを注文すると、分厚くて重みのある陶器のマグカップで提供されます。ドーナツやパイも陶器製の皿に置いた状態で出されます。冷たいドリンクであれば、しっかりと厚みのあるガラスのグラスです。 この「ずっしりとした重量感」と「陶器の柔らかな温もり」は、利用者の心理に落ち着きを与えます。ミスドには古くから「ミスド ブレンドコーヒー」などのおかわり自由のサービスがありますが、あの重いマグカップは、喫茶店のように「ゆっくりと腰を落ち着けて、会話や読書、贅沢な時間を楽しんでいってください」というメッセージそのものなのです。
翻って、ハンバーガーチェーンはどうでしょうか。どれだけ広いイートインスペースがあっても、ドリンクは基本的に使い捨ての軽量な紙コップ、あるいは薄いプラスチックカップで提供されます。 手にしたときの感覚は極めて「ライト(軽快)」です。これは、店舗側の片付けの効率化という意味合いもありますが、利用者に対しても「ファストフード(素早くエネルギーを補給し、サッと店外にも移動できる)」としてのテンポ感を促す効果を持っています。触覚的な軽さが、そのまま店舗の回転率の高さへと繋がっているのです。
すべての「手触り」には理由がある
ここまで、紙ナプキン、トングとトレー、包装紙、そしてコップという4つの視点から、ドーナツチェーンとハンバーガーチェーンの相違点を見てきました。
これらを一言で総括するならば、以下のようになります。
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ドーナツチェーン(ミスド)は、「カフェ・喫茶店」の設計。
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砂糖のベタつきから手を守り、五感で美味しさを楽しみながら、心地よく長い時間を過ごしてもらうための「優しく、重厚な手触り」。
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ハンバーガーチェーン(マック等)は、「スピード・スタンド」の設計。
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大量の水分・油分という難敵を効率よく処理し、出来立てを素早く食べてもらうための「実用的で、軽快な手触り」。
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私たちが毎日何気なく触れている世界は、こうした無数の意図によって形作られています。次に皆さんがドーナツを頬張る時、あるいはハンバーガーにかぶりつく時、ぜひその「手触り」に、もう一度だけ意識を向けてみてください。きっと、いつもとは少し味が深く感じられるのではんあいでしょうか。
(ちなみに今回のタイトルは、1973年のマクドナルドのCMコピー「味なことやるマクドナルド」を捻ったものです。)