AirLand-Battleの日記

思い付きや素朴な疑問、常識の整理など、特段のテーマを決めずに書いております。

お医者さんに不調を説明するための「準備」

 体調を崩して病院に足を運んだ際、自分の症状を本当にうまく医師へ伝えてられているでしょうか?

 「なんとなくお腹が痛くて……」 「前からずっと調子が悪くて……」

 このように、あいまいな表現で説明してしまうケースは決して少なくないはずです。しかし、こうした不明確な説明は、医師の診断を迷わせ、適切な医療への手がかりを遠のかせる大きな要因となることは容易に想像できるはずです。

 英会話テキストなどをめくると、海外で医者にかかる際の表現として「いつから」「どこが」「どのように痛むか」といった伝え方が適確に用意されていることに気づかされます。英会話以前に、日本人が日本国内で受診する場合こそ、この正確で適確な言語化は英会話とまったく同様に、あるいはそれ以上に重要になります。そもそも日本人の会話の多くは明晰さや論理性に欠けがちで、言葉は少なくとも以心伝心に期待する傾向もあると感じます。これではお医者さんも大変でしょうね.....

 

医師が診断時に頭を抱える「NGな伝え方」

 医師は診察室で、患者の言葉を手がかりに「どの臓器が、どういうメカニズムで障害されているか」という鑑別診断を行っています。ここで客観的な情報ではなく、曖昧な言葉や独自の解釈が入ると、診断の精度は著しく低下します。

 現場で頻繁に見られる医師が判断に困る表現の典型例を見てみましょう。

1. 時間のスケール感が欠落した表現

 「ずっと痛いです」「少し前から不調で」といった言い方は危険を孕んでいます。医師にとって「ずっと」が2時間なのか2ヶ月前なのかによって、疑うべき疾患は180度変わります。発症後4~5時間以内の迅速な処置が脳組織の救命率を左右する脳梗塞などの急性疾患では、この時間軸の曖昧さが致命的になりかねません。

2. 解剖学的な位置とズレた表現

 「お腹全体が痛い」「胃が痛い」という訴えも注意が必要です。実際に「胃が痛い」と訴える患者の多くは、みぞおちやへそ周囲、あるいは下腹部に問題を抱えています。みぞおちの痛みは胃だけでなく胆のうや心臓疾患の可能性もありますし、右下腹部の痛みであれば急性虫垂炎(盲腸)が疑われます。「お腹」という広い括りではなく、「指一本で痛む場所をさせるか」が重要な手がかりとなります。

3. 主観的な自己診断・病名での報告

 「偏頭痛がします」「貧血でクラクラします」と病名で報告してしまうケースです。患者の言う「貧血」の多くは立ちくらみ(起立性低血圧)ですが、医師が警戒する医学的貧血は「血液中のヘモグロビン濃度の低下(潰瘍やがんによる出血)」です。最初から自己判断の病名で語られると、医師は本当の症状をゼロから探るために聞き直す必要が生じ、診察時間を圧迫します。

4. 痛みの「波」を覆い隠す表現

 「ずっと痛みが続いています」と言いつつ、実は痛みの強さに波があるパターンです。腸や尿管といった管状の臓器が収縮・弛緩を繰り返す痛みは、「激痛の数分間と、全く痛まない数分間が交互に訪れる(間歇性)」という明確な特徴を持ちます。一方で、炎症が広がっている場合は休むことなく痛みが続きます(持続性)。この波の有無は、病気を絞り込む決定打になります。

 

医療界の標準「OPQRST」を活用する

 では、どのように伝えれば医師に正しく伝わるのでしょうか。救急医療や問診の現場で世界的に用いられている標準フレームワーク「OPQRST」が非常に参考になるでしょう。ひょっとするとこれまで診断時に問われた質問形式が、実はこれに従っていたことを思い出すかもしれません。

  • O(Onset:発症のきっかけ) いつ、何をしている時に始まったか。「昨日の22時頃、寝ようとした瞬間から」「今朝の通勤中、急に」など、具体的に伝えます。

  • P(Provocation / Palliative:増悪・寛解要因) どうすると悪化し、どうすると和らぐか。「息を深く吸うと痛む」「温めると楽になる」「歩く振動で響く」といった動作との連動性です。

  • Q(Quality:症状の性質) どんな痛みか。オノマトペを整理します。「ズキズキ(脈打つ血管性・炎症性の痛み)」「ギュッと絞られる(内臓平滑筋の収縮)」「重苦しい(筋肉や深部臓器)」「ピリピリ(神経系)」などです。

  • R(Region / Radiation:部位・広がり) どこが痛み、どこへ広がるか。「みぞおちの奥」「右下の腹部」「肩から肘にかけて放散する」など、場所を限定します。

  • S(Severity:程度) どれくらい強いか。全く痛まない状態を0、人生最大の激痛を10とした場合に「今は6、昨晩のピーク時は8」というように数字で評価します。

  • T(Time:時間的変化) 経過はどう変化しているか。「発症から一定の強さで続いている」「強くなったり弱くなったりを15分周期で繰り返している」など、時間軸の波を伝えます。

 標準的な病院の電子カルテシステムでも、医師が記載する標準フォーマットの”主訴欄”に、このOPQRSTに沿った入力テンプレートや人体のイラストが組み込まれています。医師がカルテに入力するために症状を聞いているのは、実は原則的にそのフォーマットに基づいているのです。

 

防犯カメラのように客観的な事実を語る

 自分の不調を語る際のコツは、感情的に「ヤバさ」を訴えるのではなく、防犯カメラの映像を説明するように客観的な事実(時間・場所・数値・変化)を語ることです。

 言語化だけに頼る必要はありません。「あ、ここです」と右下腹部を指一本で示したり、皮膚の傷口や発疹を直接見せたりする身体的なアクションは、診察において最も確実な基本手順です。

 患者側が自身の感覚をモニターして整理し、医師側がそれを受け止める。この双方向の精度が高まることこそが、誤診を防ぎ、日本社会全体の医療効率を向上させる鍵となることは当然のことでしょう。

 診察室に入る前、あるいは待合室での数分間で、以下のチェックリストを整理しておくことを強くお勧めします。(とはいて、気分が悪い時や痛みに苦しんでいる状態で、落ち着いてチェックリストを元に言い方を考えるということが、実務的にはひとつのハードルかもしれません。)

 

資料:「診察前チェックリスト」

受診時にそのまま医師や看護師に見せるか、問診票の記入に役立ててください。

【診察前チェックリスト】

  • [ ] 発症日時を数字で言えるか(例:〇日前の〇時頃から)

  • [ ] 一番痛む場所を指一本で指せるか

  • [ ] 痛みの強さを10段階の数字でイメージできたか

  • [ ] 痛みに波があるか(ずっと痛いか、痛まない時間があるか)把握しているか

  • [ ] 吐き気、発熱、下痢、めまいなどの「伴随症状」をメモしたか

  • [ ] すでに服用した市販薬や解熱鎮痛剤の名称・時間を控えたか

【診察用 自主記入票(メモ用フォーマット)】

【主訴(一番困っている症状)】 

【1. いつから・どんなきっかけで(Onset)】

  • 発症時期:  月  日  時頃から(約  時間前)

  • きっかけ:[ 突然急激に / 徐々に / 何をしている時:       ]

【2. どんな症状か・強さ(Quality / Severity)】

  • 性質:[ ズキズキ / ギュッと絞られる / 鈍い重み / ピリピリ / その他:   ]

  • 痛みの強さ(0〜10段階):[ ピーク時:  / 現在:  ]

【3. どこが痛むか(Region)】

  • 場所:[ みぞおち / 右下腹部 / 左下腹部 / 背中 / その他:      ]

  • 他の場所への広がり:[ なし / あり(部位:     )]

【4. 変化や楽になる条件(Provocation / Time)】

  • 変化の波:[ 途切れなくずっと痛い / 痛い時と痛くない時がある ]

  • 悪化・和らぐ条件:[ 押すと痛い / 歩くと響く / 息を吸うと痛い / 温めると楽 / 特になし ]

【5. 同時にある症状(伴随症状)】

  • [ 発熱(   . ℃) / 吐き気・嘔吐 / 下痢 / 頭痛 / しびれ / その他:     ]

【6. 事前に行った対処・備考】

  • 市販薬の服用:[ なし / あり(薬の名称: 服用時間:   時頃)]