「これ、何のためにやってるんだっけ…?」ふとした瞬間に、そんな疑問が頭をよぎることはありませんか?毎日、言われた通りにこなしているけれど、その作業が一体何の役に立っているのか、誰のどんな課題を解決しているのか、さっぱり分からない。そんな“目的不明の事務作業”に、私たちは貴重な時間とエネルギーを無駄に浪費してしまっている可能性があるのです。
なぜ「目的不明の事務作業」は生まれるのか?
では、一体なぜ、このような無駄な事務作業が私たちの周りに蔓延ってしまうのでしょうか?その背景には、いくつかの根深い要因が潜んでいます。
1. 曖昧な指示と目的意識の欠如
上司や関連部署からの指示が、具体的な目的や背景を伴わないまま降ってくることがあります。「前任者がやっていたから」「とりあえず頼んでおこう」といった、その場しのぎの指示は、担当者の目的意識を希薄にし、「言われたからやる」という受け身の姿勢を生み出してしまいます。その結果、年初やゴールデンウィークといった繁忙期に、休日出勤をしてまで対応する必要があるにも関わらず、その業務の意義を誰も理解していない、なんていう悲劇も起こりうるのです。
場合によって、あるいは人によっては、目的が分からなくなったのであれば、新たに目的や価値を見出そうとまですることがあります。これこそまさに手段の目的化ですので、こうした考え方に陥らないように注意が必要です。
2. 慣習と前例主義の呪縛
長年行われてきた業務は、いつの間にか「それが当たり前」という慣習になってしまいがちです。過去には意味があったのかもしれませんが、時代の変化や組織の変革によって、その必要性が薄れている可能性も十分にあります。しかし、「昔からやっているから」という理由だけで、誰もその妥当性を検証しようとせず、惰性で続けられてしまうのです。
3. 責任の所在の曖昧さという落とし穴
複数の部署や担当者が関わる業務において、責任範囲が曖昧だと、「誰かがやっているだろう」という他人任せの意識が生まれます。その結果、誰もその業務の全体像を把握せず、無駄な作業が放置されてしまうことがあります。
4. 形式主義と完璧主義という名の非効率
報告書や資料作成において、内容の本質よりも体裁や形式にこだわりすぎることはありませんか?完璧なものを求めすぎるあまり、必要以上に時間をかけ、本来の目的を見失ってしまうことがあります。細かすぎるデータ収集や、誰も読まないであろう詳細な資料作成に時間を費やすのは、まさに時間の無駄遣いです。
近年の事務作業では、Microsoft社ソフトウェアなどのマクロやVBA、もっと最近ではAIを使ってクリックひとつで(つまり形式的な作業だけで)レポートや報告書を自動で作成することを提案されていることがありますが、これも年月が経過すると(担当者が何代も入れ替わった後に)いつの間にか、何の目的でどのような条件で集計・分析しているのかが不明になり易いという大きな懸念を感じます。
5. コミュニケーション不足が生む無駄
部署間や担当者間の連携不足は、情報の重複や手戻りを生み出します。ある部署では全く使われない資料が、別の部署で延々と作成され続けていたり、同じようなデータ入力が複数の担当者によって行われていたり…。コミュニケーション不足は、組織全体の効率を著しく低下させる要因となります。
6. 評価制度の歪み
成果や効率性よりも、残業時間や業務量といったプロセスが評価される場合、「目的のない業務に時間を費やすこと=頑張っている」と認識される可能性があります。これは、無駄な業務を助長する間違ったインセンティブと言えるでしょう。
7. 上下関係と説明不足、そして引継ぎの軽視
日本の伝統的な組織文化における上下関係は、時に上司からの丁寧な説明を阻害する要因となります。「言われたことをやればいい」という一方的な指示は、部下の主体性を奪い、業務の目的理解を妨げます。また、管理職層における引継ぎや申し送りの軽視は、業務の目的が役職とともに忘れ去られてしまうという事態を招きかねません。
8. 「文書化」という名の壁
口頭での指示や説明が中心で、文書化が徹底されていない組織も少なくありません。これは、認識の齟齬を生み出しやすく、後になって「言った言わない」のトラブルに発展する可能性も孕んでいます。特に、公教育において口頭での説明や発表の訓練が不足していることも、この状況に拍車をかけているかもしれません。
「目的不明の事務作業」を撲滅するための処方箋
では、このような「目的不明の事務作業」から解放され、より生産的な働き方を実現するためには、具体的にどのような対策を講じるべきなのでしょうか?
ステップ1:現状の可視化と問題提起
まずは、自分自身が行っている業務を洗い出し、「これは一体何のためにやっているんだろう?」という疑問を持った業務をリストアップすることから始めましょう。そして、勇気を出して上司や同僚にその目的や必要性を確認してみるのです。
ステップ2:「なぜ?」を深掘りする
もし、周囲もその目的を明確に答えられない場合は、「なぜこの作業が必要なのか?」「このアウトプットは誰が何に使うのか?」「もしこの作業を止めたらどうなるのか?」と、根本的な問いを繰り返してみてください。意外なことに、「特に理由はない」「昔からやっているだけ」という答えに辿り着くこともあるかもしれません。
ステップ3:関係者との徹底的な対話
その業務のアウトプットを利用する部署や担当者にヒアリングを行い、現状の課題や改善点について意見交換を行います。時には、思いもよらない発見があるかもしれません。
ステップ4:上位層への報告と見直し提案
チームや部署内で解決できない場合は、さらに上位の管理職に現状を報告し、業務の見直しや廃止を提案することも重要です。
ステップ5:業務の再設計と効率化
目的が明確になった業務については、より効率的な手順やツールの導入を検討します。RPAやITツールの活用、業務の統合や集約なども有効な手段です。
ステップ6:指示・依頼方法の改善と文書化の徹底
今後、同様の事態が新たに増えてゆくことを防ぐために、業務を依頼する際には、目的、背景、期待される成果を明確に伝えることを徹底しましょう。特に管理職や重役になるほど、業務の依頼をするときにこまごまとした指示をするのを嫌う傾向にありますが、ここも無視できない原因です。また、重要な指示や決定事項は、口頭だけでなく必ず文書で記録する習慣を根付かせることが不可欠です。
ステップ7:定期的な見直しと改善サイクルの確立
一度改善したら終わりではありません。定期的に業務内容を見直し、その目的や必要性が変化していないかを確認する仕組みを作りましょう。担当者からの改善提案を積極的に受け付け、検討する文化を醸成することも重要です。
組織全体で「無駄」をなくす意識を
「目的不明の事務作業」の撲滅は、一人の力では難しいかもしれません。組織全体が問題意識を持ち、積極的に改善に取り組む姿勢が不可欠です。管理職は、部下に対して明確な指示と丁寧な説明を心がけ、過去の慣習にとらわれず、常に業務の効率性を見直す必要があります。
そして、私たち一人ひとりも、「言われたことをただこなす」のではなく、「この作業は何のためになるのか?」という疑問を持つこと、そして改善のために声を上げる勇気を持つことが大切です。
さあ、今日から皆で「目的不明の事務作業」をなくし、より価値のある仕事に集中できる、そんな生産的な働き方を実現していきましょう!