生きていれば、誰しもが怒りや悲しみといったネガティブな感情を経験します。しかも、それらの感情がいつまでも心に残り、日常生活に支障をきたすほどになると、大きな苦しみとなります。特に、ネガティブな出来事はポジティブな出来事よりも記憶に残りやすく、私たちは無意識のうちに過去の怒りや悲しみに囚われてしまうことがあります。 では、どうすれば忘れられない怒りや悲しみを捨て、心を軽くすることができるのでしょうか?
世界保健機関(WHO)の報告でも、うつ病などの精神疾患は世界的に増加傾向にあるそうです。日本においても、以前は「気のせい」や「怠け」とされていた症状が、疾患として認識されるようになったこともあって患者数は増加しており、特に若い世代の増加が顕著です。
現代社会は人々の生活が複雑化し、それに伴って以前よりもストレスが増加するようになっています。また近年の日本社会の雇用の不安定化は、将来への不安が増大につながているのかもしれません。さらに核家族化や地域社会のつながりの希薄化によって、孤立感を抱える人、相談できる人がいない状況になりがちです。先進諸国はどこでも価値観が多様化し、従来の「こうあるべき」という価値観が通用しなくなったことでかえって生き方に迷い、自己肯定感が低下するようにもなっている面があるでしょう。
1. ネガティブな感情と記憶のメカニズムを知る
そもそも、なぜ私たちはネガティブな感情や記憶に囚われやすいのでしょうか? 以下のメカニズムを知ることで、ネガティブな感情や記憶に囚われることは、決して個々人の性格や特殊な経験によるものではないということを理解できるでしょう。
- ネガティビティ・バイアス:
- 人間は進化の過程で、危険を回避し生存率を高めるために、ネガティブな情報を優先的に処理・記憶する「ネガティビティ・バイアス」という心理的な傾向を持つようになりました。 例えば、毒のある植物を食べた経験や、危険な動物に遭遇した経験を記憶しておくことで、次回から同じ危険を回避しやすくなるというわけです。
- そのため、ポジティブな経験よりもネガティブな経験の方が、感情や行動に強い影響を与えやすくなっているのです。
- 記憶のメカニズム:
- 脳は、感情を伴う出来事をより強く記憶する傾向があります。特に、怒りや悲しみといった強い感情を伴う記憶は、長期記憶として残りやすいと言われています。
2. ネガティブな感情を軽減するための具体的な対処法
ネガティブな感情や記憶から解放されるためには、具体的な対処法を実践することが重要です。なお、4番目の「笑いの効用」については、同じタイトルで当ブログの記事を書いたことがあります。
- 感情の吐き出し:
- 信頼できる人に話を聞いてもらったり、日記に書き出すことで、感情を整理し、客観的に捉えることができます。
- 新しいポジティブな経験:
- 意識的に楽しい活動や好きな趣味(読書、音楽鑑賞、散歩など)に時間を費やし、ポジティブな経験を積み重ねることで、ネガティブな記憶の影響を弱めることができます。
- マインドフルネス:
- 瞑想や深呼吸などを通して、現在の瞬間に意識を集中することで、過去のネガティブな記憶にとらわれることを防ぎます。
- 笑いの活用:
- 笑うことで、ストレスホルモンが抑制され、幸福感をもたらすホルモンが分泌されます。映画や漫才、落語などで意識的に笑う機会を増やしましょう。
- 生活習慣の改善:
- 規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠は、心身の健康を保ち、感情の安定に繋がります。
3. 周囲との関わり方を見直す
時に、ネガティブな感情は、使っているSNSや職場、教室などといった周囲との人間関係によって引き起こされることがあります。
- SNSとの距離:
- SNSでの誹謗中傷や、情報過多は、心を疲れさせてしまう可能性があります。SNSとの距離を適切に保ちましょう。
- 信頼できる人に相談:
- 一人で抱え込まず、信頼できる人に相談することで、気持ちが楽になることがあります。
- ゲートキーパーの存在:
- 「ゲートキーパー」とは、自殺の危険性を示すサインに気づき、適切な支援機関につなぐ役割を担う人、「命の門番」のことを指します。近年になって厚生労働者を中心として民間に呼びかけられているボランティア的な役割です。(サッカーのポジション名みたいな感じですが....)
- 周囲の人の変化に気づき、適切な支援機関につなぐ「ゲートキーパー」の存在を知っておきましょう。必要であれば、そのような機関の力を借りることも有効です。
- また可能であれば、あなた自身が「ゲートキーパー」になれるよう、インターネット上の資料で勉強してみてはいかがでしょう。
4. 専門家の力を借りる
もし、これらの対処法を試しても状況が改善しない場合は、専門家の力を借りることを検討しましょう。
- 心療内科・精神科:
- 医師や臨床心理士とのカウンセリングを通して、ネガティブな感情の原因を探り、適切な治療を受けることができます。
- 必要に応じて、薬物療法も併用することで、症状の緩和が期待できます。
5. 社会全体でメンタルヘルスを支え合う
現代社会は、ストレスが多く、心を病みやすい環境と言えます。私たち一人ひとりがメンタルヘルスに対する理解を深め、支え合うことが大切です。上で挙がった「ゲートキーパー」などはちょうどそうした「支える人」を産み増やすための呼びかけでしょう。
- メンタルヘルスに関する正しい知識:
- メンタルヘルスの重要性を理解し、精神疾患に関する偏見をなくしましょう。
- 周囲の人への理解とサポート:
- 周囲の人の変化に気づき、声をかけ、話を傾聴し、共感する姿勢を持ちましょう。
- 自身のメンタルヘルスケア:
- ストレスを溜め込まないように、休息やリフレッシュを心がけ、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
- 社会貢献:
- 職場や地域社会におけるメンタルヘルス支援に貢献しましょう。
忘れられない怒りや悲しみを抱えることは、決して恥ずかしいことではありません。周りの人に頼ったり、専門家の力を借りながら、少しずつ心を軽くできるもので。つまらない発言や行動によって、価値ある存在が埋もれてしまわないように、上手く強く生きること、大切な人を大切にすることを忘れないようにしてください。